第11話 ビジネスクラス

「少々お待ち下さい…」

 航空会社の綺麗な地上乗務員が僕と課長に言った。


「香港までどれくらいですか…?」

 旅なれた、そして今日もそうだが航空会社のVIPカードを持って、平気で専用ラウンジに出入りし、旅慣れない僕に

「ビールとかパンとか持ってけよ。向こうで腹が減ったときに便利だぜ」

 と指導し、勝手に僕のバッグにバンバンとそれらを押し込みニヤニヤ笑っていた課長に訊いてみた。


「5時間くらいだよ…まあ、寝て行きゃすぐだが、俺は映画を見るからよ…」


 そうだ、映画だ…、今は何をやっているのだろう。面白いのだといいね。

「本庄様、小杉様、シート○○と○○のビジネスクラスのお席となります。よろしいですか?」


 え…、僕と課長は目を合わせた。


 今ビジネスって言わなかった…?僕は目でさらに課長に問う。ここは黙って、「うん」かな? でも総務でとったのは当然エコノミーだったよな。


「ああ、はい、いいですよ、それじゃこれ、預ける荷物ね…。な、小杉もいいだろう?」

いいも悪いも…。

「はい…はい、いいです、これ僕の荷物です、お願いします」


 そのまま預けると僕と課長は無言でカウンターを離れた。

「小杉、まじめそうで、でもワルだな~。あそこで黙っているんだもんな~」

「課長だってそうじゃないですか、でも、本当にビジネスなんですかね?」

「おお、あの綺麗なおねえさんが嘘を言うはずねえよ。いいね、ラッキーだね」


 確かにビジネスクラスだった。コップもプラでなくガラスで、ナイフもフォークも金属製だし、シートだって後ろを気にせず倒せた。スリッパもあるし、映画の画面も手元まで引き出せるもので、エコノミーとは違う。

 おもわずシートの写真を撮っていた僕に課長は

「俺の普段の行いだな…。でもあそこでまじめな小杉が黙っていたって、あとでシステム部のみんなに言おう。うけるぜ!」


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