第10話 なんか変な感じ

 朝、いつものようにラウンジへ向かう。給湯器のある部屋からマイマグカップを取り出し給茶機へ、カップをセットしさらに緑茶を選ぶ。こぼれないように取り出して、とりあえずその場でひとくち飲む。


 いいね、やっぱり日本茶だね。でもなんか違和感。最初は気づかなかったがカップが茶渋で汚れていたのに、きれいになっている。

 なんだ、誰がやったんだ…。給湯室に戻ってみんなのカップをみて見る。勿論どれが誰のだかわからないが、任意にふたつくらい取り出して見てみる。みんなのを一斉に漂白したようではないらしい、というか、それぞれ汚れたものは汚れているし、そうでないのはきれいだし…。


 何だろう…、これも普段の行いかな…。


 夕方というか帰宅時、またなんとか電車に座れて本を読んでいると、となりの年配のおじさんから、


「おお!」


 という喜びの声が聞こえた。なんだろうと目だけでおじさんを見ると、スマホで野球の経過を見ている。にこにこしている。自分ではそんなに大きな声を出したつもりはないのだろう。画面を注視しつづけている。


 不審に思い、おじさんの画面をちらりと見たら「おお!」の訳ははっきりした。

 ジャイアンツがサヨナラで、延長で得点して勝ったらしい。

 まあね、僕も東京出身だし、どちらかというとというか、十二球団の中では断然ジャイアンツファンであるし、それはうれしいよ!思わず、

「勝った?」

 と見も知らぬおじさんに話しかけてしまった。そんな社交的ではないんだがなぜだろう。


 おじさんは満面の笑みで

「サヨナラ、サヨナラホームラン!」

 と車両中に聞こえるほどの大きな声で応えてくれた。やったね、やったよ。

 でも、そういえば開幕当時はジャイアンツ調子が悪かったのに、最近勝ち始めたな。あれ、昨日も勝たなかったかな?


「ねえ、昨日も勝ったよね」

「おお、これで十連勝よ!首位だよ!ハハ、信じられねえよ!」

 おじさんは上機嫌だ…。


 勿論僕もそうだ、信じられないよ。



「と、いうことで香港出張は小杉さんと本庄課長にお願いします。これから海外子会社もシステム監査が厳しくなるんでね、がんばってその整備の指導をやってきてください。航空チケットは総務が一括でとってくれるので、あと、小杉君はコーポレートカード、申請しておいて下さい。まあね、本庄課長は海外出張慣れているので、いろいろ聞いておいて下さい。じゃ、以上で…」


 部長がまとめる、まあいつもながらうまい。出世する人はちがう。でも、前回の会議まで僕の名前なんてメンバーにあがってなかったのに、それに今回は課長だけで十分だって話だったのに、いきなり


「小杉君もたまにはどう? 英会話講習の成果ってことで…」

 と係長が薦めてきた。なんだろう、係長なんかいいことあったのかな?

 まあいいや、パスポート用意しておかないとね。


「まあな、この前の部品構成システムのせいじゃないか…」

 吉沢が僕の肩をたたきながら言った。

「なんだろう、なんかな~、変だよな~」

「嫌じゃねえんだろう?」


「うん…でもなんか変なんだよな~、最近さ…」


「いいじゃねえか、まあ気をつけてな!」


 気をつけるさ、海外だし、なんか変な感じだし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る