27.作戦開始—yutaka

 四人で交代で火の番をしながら仮眠を取り、朝になった。

 日の出と共に起き出した四人は火の始末をして手持ちの干し肉とパンで簡単に食事を済ませてから身支度を整える。アンゼリカはナギに施してあった包帯と薬草を交換した。

 薬草のお陰で出血は止まっているが、肩から背中にかけての刀傷は軽くはない。アンゼリカはナギに魔術医師に診てもらう様に勧めたが、組織で負傷を知られる事で作戦を感づかれるのを避けたいというナギは、今回は手当だけで済ませるという。カズラは刀傷が目立たないように自分の予備のシャツをナギに渡した。手当の上から服を着れば怪我には気づかれないだろう。


 四人は改めて車座になって地面に座った。もう少し日が高くなったらこの森を抜けて集合場所に行けば、他の警備の兵達と合流出来る筈だ。


「ナギさんが加わったので、今回の作戦をおさらいしましょう」


 カズラが口を開いた。


「私達は森の警備から帰還するカーモスの兵士達に紛れて城に侵入します。作戦通り進んでいればアスカ国王は明後日にウスヴァを訪問します。これは、アスカ国王陛下が前触れ無く訪問してカーモス側の警備が混乱が生じることに乗じて、カーモス城の何処かに捉えられているサザを救出する為です。サザを見つけたら持ってきたカーモスの軍服を着せて、もう一度下級兵の中に紛れ込んでイスパハルへ逃げます」


「成る程な。良い作戦だ。私はどうしたらいい?」


「私達は城の何処にサザが居るかがまだ分かりません。探すのを手伝って欲しいです。城に忍び込んで、私達とは別口でサザの居場所を探して貰えますか?」


「分かった。まあ、普通に考えたら罪人なら牢屋だろうからそこから当たるか。牢屋も広いからな。ただ、私は組織の命を受けて森からの不審者を探しに来てたから、組織に戻って異常無しと報告する必要があるんだ。それが終わってからだな。その後はまた森で今と同じように警備する事になってるから、それに参加してるていで誤魔化せるな」


「ありがとうございます。私達は軍人のフリをするので大っぴらには動けませんが、アスカ国王が来訪するまでは噂話など無いかをよく聞くようにします」


「お前らは城に戻ったら軍宿舎に行く筈だな。普通の兵士は三日ごとに城内警備、休暇、森の警備でローテーションしてるんだ」


 そこでユタカは一つ気になった事を口にした。


「でも、おれ達とナギさんとは城内で情報交換出来るかな? おれたちは軍服があるから紛れられるけど、ナギさんと城内で話してたら怪しまれるよな」


「それなら良い場所があるぜ。宿舎の中庭の端にスグリの低木が生えてる。今の時期は赤い実が成ってるから直ぐ分かる筈だ。その陰に建物の下の方に鉄格子窓があるんだけど、そこは偉い奴が有事の時にこっそり城を抜け出す為の秘密の通路なんだ。鉄格子は一見重くて動かなそうに見えるけど、押せばドアみたいに簡単に開けられる細工がされてる。入ったらそこそこ広いんだよな。夜中の十二時になったら報告しに行くからそこに来れるか?」


「へえ……分かりました。そうしましょう」


「あと、ユタカ。昨日聞きそびれたから教えて欲しいんだけど」


 ナギはそう言って一呼吸置いてから、もう一度口を開いた。


「女王を殺したのが私……サザの母親だって事を、イスパハルの国王陛下は知ってるのか?」


「……知りません」


「まあ、お前らからは言えないよな。とは言え、イスパハルの国王陛下は絶対に私を許さないだろう。幾ら命令だとはいえ、妻である女王を殺したんだからな。私はイスパハルへ行けば死刑だ。当然だな」


 ナギは小さく溜息を吐く。目を背けたいが、イスパハルではナギの言う通りになるだろう。ユタカは思わず目を伏せた。


「国王陛下はサザを守ってくれたんだ。死刑は甘んじて受け入れよう。ただ、もし一つだけ願いを聞いてもらえるなら。私が死ぬ代わりに国王陛下は、サザをゆるしてくれるだろうか」


「……」


 ナギが何をしようとしているのか感じ取ったユタカ達はその決意の余りの重さに、思わず口を閉ざした。ナギは暫く何かを考え込むように黙っていたが、三人が言葉を失っている事に気がつくと話を逸らす様に声のトーンを上げた。


「まあ、お前らに私がいれば、まず上手く行くぜ。期待しな」


 ナギはそう言ってにっと笑顔を見せる。ユタカ達は溶け得ぬ複雑な思いを胸に抱きながらも静かに頷くと立ち上がった。


「じゃ、私は別ルートで城に向かうよ。例のスグリの木の所で、またな」


「ええ、また」


 ユタカ達三人はナギに手を振って別れると、森の出口へと歩みを進めた。


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