終章

 気が付くと、大きくてきれいなままのペガさんの隣に、小さくなったクマ次郎がいた。


「クマ次郎!」


 久我くんがクマ次郎に駆け寄る。その傍らに、烏谷先輩が立った。


「クマ次郎は、こちらで預かろう」

「クマ次郎をどうする気、兄さん!」

「……仕方がないから、再試験を受けさせてやろうと思う。一人、再試験をする必要がなくなった人間がいるからな」


 私の方を見て、烏谷先輩が言う。


「このクマ次郎は、それだけ相棒であり、飼い主である人間のことが好きだった、その気持ちは尊敬に値する」

「寂しいけど……お願いします」


 久我くんは、大きく頷いた。烏谷先輩は、カラスさんたちを呼び寄せる。

 一際大きなカラス、サイトウさんに飛び乗って烏谷先輩は、クマ次郎を隣に乗せる。


 それから、アキト先輩を振り返って言った。


「……一言だけ、言っておこう」

「なんだよ?」

「感謝する」


 それだけ言って、烏谷先輩はクマ次郎と共に空に舞い上がった。


「素直じゃないよね、兄さんも。前からアキト先輩は、絶対すごい魔法使いになるって言ってたんだよ?」

「仲いいな、お前ら!?」

「仲は悪いよ、ただ、兄さんの努力家なところだけは見習わなきゃと思ってるけど」


 マサキさんがいたずらっぽく首をかしげる。

 山田さんが、久我くんに近づいていく。


「あの、久我くん。これ、よかったら」

「え、ぼくに……?」

「今月、誕生日だって聞いたから……」

「ああそれは、クマ次郎の誕生日。ぼくは、来月なんだ」

「え!?」


 明らかにショックを受けた表情の山田さん。

 だけど、久我くんは嬉しそうに、プレゼントを受け取った。


「でも来月だし、先にもらっておくよ。開けてもいい?」

「もちろん!」


 中には、クマ次郎そっくりの黒猫のぬいぐるみが入っている。


「わあ、ぼくが黒猫が好きだってよく分かったね!?」

「筆箱に、小さい黒猫が、ついてたから……」


 それに、と山田さんは言葉を続ける。


「私、ぬいぐるみが好きだから!」


 談笑している二人を見守りつつ、マサキさんが言う。


「しまったなぁ、久我くんが占いと称して魔法を使ってたこと、気づいてたのになぁ……。まさか、魔法石ととんがり帽子を盗んできてたとは思わなかった」

「魔法で当てたことを、占いと偽っていたんだな。悪いことばかり、伝えていたと」

「それで、悪い魔法が蓄積されて、暴走……ねぇ」


 マサキさんがため息をつく。


「まぁ、とりあえずはけが人も出なくてよかった。校舎はボロボロだけど」

『校門前にいる生徒たちの記憶消去と、学校の修繕、お任せくださいですわ』


 ペガさんが清らかな声で言う。


『この状態のあたくしでしたら、割と何でもできます』

「割と、ってなんだよ、雑だなぁ」

「よろしく頼んだぜ、相棒」

『はいなのですわ』


 ペガさんは嬉しそうに、大空へと羽ばたいていった。


♦♦


 ペガさんのおかげで、無事に校舎は元通り、私たちや、山田さん、久我くん以外の生徒たちの記憶はもれなく、消去されました。


『ミスズ、お腹すいたのだ』

「美鈴、トシロー。ごはんできたわよー」


 トシローさんがぼやいたとき、お母さんの声がした。


「はーい」


 トシローさんがとんがり帽子をかぶったまま、お母さんのところへ走り寄って行った。


「あらその帽子と魔法石のリボン、おばあちゃんのとあたしのが、まざってるわね」


 お母さんがびっくりすることを言う。


「お母さん、魔女だった時の記憶、戻ったの!?」

「ああそれね。……あなたがあの絵本を置いて行ったあと、思い出したのよ」


 そっか、だから帰ってから、まだ名前も教えてなかったトシローさんのことを、トシローさんと呼んだり、今まで以上にトシローさんを大事に扱ってたんだ。


「このトシローさん、あたしが飼ってたトシローさんに、そっくりなのよね。生まれ変わりかしら……」

「だから、帽子とリボンの話!」


 私がせがむと、お母さんは笑った。


「おばあちゃんは、黒魔女まで上がったから、黒なの。あたしは、赤魔女の時に魔女をやめたから、赤。だから、帽子はおばあちゃんのもので、リボンはあたしのものなのよ」


 そんな組み合わせになっていたんですね!


「じゃあ私はきっと、黒魔女になって見せます!」

「そうそう、その意気よ!」

『ワガハイのために、一流の魔女になるのだ!』


 トシローさんも、得意そうです。


♦♦


 トシローさんとの出会いによって始まった、非日常ものがたり

 そのおかげで、アキト先輩や、マサキさん、烏谷先輩と出会うことができました。

 きっとこれからも、すてきな出会い、非日常ものがたりが待っているはず!

 楽しみですね!


                                   《完》

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魔女スカウト! ~猫が魔女をプロデュース!?~ 工藤 流優空 @ruku_sousaku

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