とんがり帽子と魔法石の暴走

 校門の前には、たくさんの人だかりができていた。


『どうやら、学校に入れなくなっているようですわ』


 ペガさんが言う。


「とりあえず、中庭で降りよう」


 マサキさんの言葉で、私たちは中庭に降り立った。


「あ、猫村さん!」


 駆け寄ってきたのは、山田さんだった。


「大変なんです。閉じ込められてしまいました」


 腕には、昨日みんなで選んで買ったプレゼント。


「危ないから、一緒に来てください!」


 私たちはホウキを置いて、山田さんと一緒に校舎の中に入った。


「彼は、教室にいます」

「彼……?」


 そう言った時、大きな物音が教室から響いてきた。

 振り返ると、教室から何か巨大な生き物が飛び出してきた。


 とんがり帽子と大きなリボンが特徴的です。


「プロデューサーさん……」


 思わずつぶやく。黒い、大きな猫。


『魔法使い、魔女プロデューサー、倒す』


 猫が声を上げる。


「やめてくれ、クマ次郎」


 確かに今は、クマのように大きいですが、そのネーミングセンスや、いかに!?


 教室から姿を現したのは、久我くんだった。


「久我くん!?」

「魔女さんたちかい!? なんとか、なんとかクマ次郎を止めてくれ!」


 久我くんは、へなへなと床に座り込んだ。

 クマ次郎は一瞬久我くんを見たあと、校舎の外へと飛び出していった。


「ぼくが悪いんだ。クマ次郎にもっといい魔法を使わせてやってたら……」

「昨日のあれが、関係してるのか?」


 アキト先輩が詰め寄る。


「そうだ。ぼく、成績がいいだけしか取り柄がないから、変わりたいって思ってたんだ。そしたら、クマ次郎が急に魔法使いプロデューサーになって戻ってきたんだ」


 どこから突っ込むべきか、ちょっと分からないです。

 でも、なんとなく言いたいことは分かります。


「元々クマ次郎は、久我くんの飼い猫で、久我くんの気持ちにこたえて、魔法使いプロデューサーになったということですね!」

「そういうことなんだ」


『猫たちの会話の中で、魔法学校の話を聞いたのかもしれませんわね』


 ペガさんが言う。


「何にせよ、あれは持ち主のあるとんがり帽子と魔法石だ。返してもらう」

「兄さん!」


 後ろからやってきたのは、烏谷先輩だった。


「ちなみに猫村、お前が持っているとんがり帽子と魔法石は、元々お前のおばあさんの持ち物だ。だから、そのまま持っていてもらって構わない」


 仏頂面で告げる烏谷先輩。


「おばあちゃんの……?」

「ああ。お前のおばあさんは、自分が魔女を辞める時、その帽子と魔法石を、トシローにと言って残したそうだ。そして今回、その猫がトシローだと証明された」

「証明されるのに時間がかかったね!?」


 もうほとんど再試験の内容をクリアしてるけど!? とマサキが文句を言う。


「その話は、後だ。とにかく今は、カラス部隊に任せているが、多分持たない」


 烏谷先輩が窓の外をみやる。外では、クマ次郎とカラスの大群が戦っている。


「クマ次郎はどんどん大きくなっている。こちらの力ではどうしようもない」


 烏谷先輩が、アキト先輩に近づく。


「お前の力を借りたい」

「は?」

「お前の相棒、ペガ。そいつの力、今なら使えるんじゃないか」

「ペガさんの力……?」

「何、隠し要素的なもの、あるの!?」


 マサキさんが目を輝かせる。


「こいつの一族、天馬家の代々相棒となるペガサス。そのペガサスは、相棒の魔法使いが強くなってこそ、本当の力を発揮する」


「無理だろ、俺は大した魔法使えねぇし……」


 アキト先輩が苦笑する。


「無理なんかじゃありません!」


 私はアキト先輩に詰め寄る。


「アキト先輩は、私がトシローさんとコンビを解消しようとした時、引き留めてくださいました。私が困った時、いつも手を差し伸べてくださいました」

「ミスズ……」

「誰が何と言おうと、先輩は、私にとって大切な仲間であり! 心強い味方であり、一流の魔法使いさんです!」


 そこまで言って、ふと気づいた。


「そうです! アキト先輩! 借りていた魔法のかけら含め、私が今持っている魔法のかけら、全部先輩に預けます!」

「仕方ないから、あたしのも預けてあげるよ」


 マサキさんも、同意する。


「必要なら、オレの分も貸そう。後で返せ」

「返せったって、数が分かってるわけじゃねーんだから……」


 そうぼやきつつ、アキト先輩は力強く言った。


「そうだよな。一族の中では下から数えた方が早くても! お前らの仲間としてなら、順番なんて関係ねぇよな! 俺は俺だ!」


 やってやるぞ、とペガさんに声をかけるアキト先輩。


『そうですわ。アキトはアキトですわ。ようやく気付いてくださいました……!』


 ペガさんは大きく頷いた。ペガさんの白い体が、光を帯び始める。


『やってやりますわよ! あたくしの相棒が一番なのだと、あたくしと! 天馬の一族のみんなに知らしめてやるのですわ!!!』


「クマ次郎の魔法石ととんがり帽子の暴走を止めて、元のクマ次郎に戻してくれ」

『やってやりますわあああああっ!!!!』


 アキト先輩の魔法石と、ペガさんの魔法石が呼応して大きな光になる。


 現れたのは、前に見た時よりも大きくて立派な角と羽を持ったペガサスだった。


『あたくしの! 聖なる光を受け取るのですわああああ!』


 クマ次郎が出て行くときに作ってしまった校舎の穴、そこを通り抜け、ペガさんは空を駆けていく。


 一筋の光が、クマ次郎の体を貫いた。学校中が真っ白な光に包まれた。

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