最後の試練!

夢の続き

 それは大雨の日だった。

 幼稚園の帰り、私とおばあちゃんは家に向かっていた。


「今日はすごい雨だねぇ」

「長靴履いてくればよかったぁ」


 歩いているときに、小さな鳴き声が聞こえた。


「おばあちゃんおばあちゃん、なんだか鳴き声が聞こえるよ」

「そうかい? ばあちゃんは耳が遠いからねぇ、声の聞こえる方に連れて行っておくれ」


 おばあちゃんの手を引き、私は歩いた。

 すると、『拾ってください』と書かれた段ボールが目の前に現れた。


「あらあら、捨て猫だねぇ。こんなに小さな、かわいい子を……」


 おばあちゃんが仔猫を抱き上げる。白と黒のまだら模様の猫は、何度も鳴いた。


「おばあちゃん、連れて帰ってあげようよ」

「そうだねぇ、そうしましょうか」


 そう言って、私とおばあちゃんは猫を連れて帰った。でも。


「動物は絶対に飼わないって言ったでしょ!」

「でもかわいそうだよ!」

「飼っておやりよ」


 おばあちゃんと私の抵抗虚しく、仔猫を元の場所に戻してくることになった。


「それじゃ、おばあちゃんが元の場所に戻してくるからねぇ……」

「私も行く!!!」


 雨の中、私とおばあちゃんは足取り重く、猫がいた場所に戻った。

 ミィミィと鳴く猫を、元の通り段ボール箱に直す。


「美鈴、いいことを教えてあげようか」

「なーに、おばあちゃん」


 半分べそをかきながら、私はおばあちゃんを見上げた。


「おばあちゃんは、魔女なんだ。そして、魔女になるためには、必ず、魔女プロデューサーという動物が必要なんだ」

「魔女……――プロデューサー?」

「そうさ。この猫は、魔女プロデューサーになっていつか、アンタの元に戻ってくる。魔法が使えるようになったら、お母さんを説得することくらい、簡単だからね」


 おばあちゃんの言葉に、私は涙をふいた。


「それじゃ、その時は、猫、飼えるかな」

「飼えるとも。きっと戻ってくる。だから、名前をつけておやり」

「トシロー。トシローがいい」


 私は言った。


「トシローかい」

「おばあちゃんが読んでくれた本に出てくる猫の名前」

「ああ、そういえばあの猫の名前は、トシローだったねぇ」


 おばあちゃんは、懐かしそうに目を細める。

 おばあちゃんがよく読んでくれた本。それは、手作りの絵本だった。


 一人の女の子が、魔女プロデューサーを名乗る猫と出会い、魔女になる話。

 主人公の女の子の名前は、お母さんと同じ由美だったっけ。


「あの絵本はねぇ、アンタのお母さんの話なんだよ」

「私のお母さんの?」

「そうさ。アンタのお母さんの相棒の猫、それが、トシローだったのさ」


♦♦


「トシローさん!」


 そう叫んだところで、目が覚めた。


『何なのだ、いい感じに寝ていたのに邪魔されたのだ……』


 隣で寝ていたトシローさんが文句を言う。


「トシローさん、トシローさんの約束の女の子は私です!」

『どういうことなのだ!?』


 トシローさんもびっくりして飛び起きる。

 私は本棚の中を漁る。すると、探していた絵本はすぐに見つかった。


 絵本を見せてあげながら、私はトシローさんに説明した。


「お母さんもおばあちゃんも、魔女だったのです。でも、お母さんは、自分の相棒だった魔女プロデューサーのトシローさんを失って、魔女をやめてしまったのです」


 部屋で学校へ行く準備を整える。

 それから、お母さんのところへ今度は絵本とトシローさんを持っていく。


「お母さん、この絵本のこと、覚えてますかっ!?」

「ああ、これね。昔おばあちゃんがあなたによく読んであげてた本……」

「この本の主人公の由美は、お母さんのことなんです!」

「あら、そうなの。初めて知ったわ」


 お母さんは、上の空です。


「お母さんは昔、魔女だったんです。そして、相棒の猫であるトシローさんと一緒だったんです」


 これをよく読んで思い出してください、そう言って、私は家を飛び出した。


『ミスズ、ミスズ。どこへ行くのだ!?』


 トシローさんが首をかしげる。


「さっき、アキト先輩が窓の外にいました。何かあったのかもしれません!」


 ボロボロだったホウキさんを、手に取る。そして、ふと気づきました。

 昨日手入れをしたから見えるようになったホウキの柄。

 そこに、由美という名前が書いてあることに。


「……これ、お母さんのホウキだったんですね……」


 魔女としての記憶は失われても、魔女として大事なホウキは捨てられずにいた。

 そうなんとなく、感じました。


「ミスズ、やべぇことになった!!!」


 上空から声がして上を見上げる。そこには、アキト先輩がいた。


「アキト先輩!」

「とんがり帽子と魔法石の居場所は分かった! 学校だよ!」

「マサキさん!」

『とんがり帽子と魔法石が暴走してるのですわ!』


 ペガさんがあわてた声を出す。


「暴走!?」

『プロデューサー動物が扱いきれないくらい、魔法のかけらを集めてしまったのですわ』

「それも、よくない感情ばっかりな」


 アキト先輩がうんざりした声で言う。


「とにかく、今なんとかできるのは俺たちしかいない。なんとかするぞ!」

「そんな適当な! でも兄さんが到着するまでは仕方ない!」

「なんだよ、結局兄貴をアテにするのかよ!?」

「どっちにしろ、兄さんもあの学校の生徒だ! 手伝ってくれるはずだ!」


 私もあわててホウキに飛び乗る。そしてホウキに手を当てて言う。


「ホウキさん、お願いします。私たちの学校へ連れて行ってください!」


 言葉を言い終わると同時に、体がふわりと浮かび上がる。成功です!


「行きますよ!」


 目指すは学校! なんとかとんがり帽子と魔法石を止めないと!

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