プレゼントを買いに

 気が付けば、私たちは大型ショッピングモールの入り口の前にいた。


「せ、成功、です……」

「やったじゃんミスズ! やったじゃん!」


 私に抱き付くマサキさん。それにしてもマサキさん、抱き付くのが好きですね。


「おめでとう、猫村。無事に成功だ」

「はい」


 その時、小さくパンパカパーンという音が聞こえた。何かを達成したみたい。


「多分、二番目のクリアじゃないかな」


 マサキさんは言う。


「後は、三番目だけ。一番やっかいな問題だけど! 今はショッピングを楽しもー!」


 そう言いながら、一番にショッピングモールに走って行くマサキさん。元気です。


「私たちも、行きましょう」


♦♦


「……結局、見つかりませんでしたね……」


 数時間後、フードコートコーナーで、私たちはぐったりしていた。


「すみません、何をあげたらいいのか、結局自分にも分からずっ」


 山田さんが何度も謝る。


「いや、友達にあげるものと違って、好きな人にあげるプレゼントって難しいわ」


 マサキさんは、うんうんと頷く。


「山田さんのせいじゃありません、この問題が難しすぎるのです」


 私は言った。


「こんな難しい問題を、山田さんは一人で悩んでいたんです。すごいです」

「そんな」

「好きな人の好きなものをあげる必要は、ないのかもしれません」


 思わず、言葉がこぼれ出た。


「え、ミスズ、どういう意味」


 マサキさんがこちらに体を乗り出してくる。


「自分の好きなものをあげるというのはどうでしょうか」

「自分の、好きなもの……」

「確かに、相手の好きなものを贈れば、ああ自分のことを知ってくれているんだと相手は思うでしょう。でも、こちらの好きなものをあげるのも、いいと思うんです」


 あなたのことを好きな私は、こういうものが好きです。

 相手にも自分のことを知ってほしい、そう思ってはいけないでしょうか。


「自分の好きなものを贈るのは、確かに勇気のいることですし、一歩間違えば引かれる可能性があります。でも」

「でも?」

「自分が好きなものもすてきなものだと知ってもらいたい、そういう気持ちは伝わるんじゃないでしょうか」


「それ……でしたら」


 山田さんがぽつりと言いました。


「それでしたら、心当たりがあります」

「本当に!?」


 天馬先輩、マサキさんが体を乗り出す。


「行こう、既に行こう」


 勢いよく走り出そうとするマサキさん。


「ちょっと待って下さい、まだ飲んでます!」

「俺が残るから、マサキ、お前山田さんと先に行け」

「合点承知の助! 行くよ、山田さん!」

「は、はいいいいっ」


 マサキさんに引っ張られるようにして歩いていく山田さん。


「……焦らなくていい」


 私が飲み物を飲み干そうとしていると、天馬先輩がのんびりと言った。


「別に、急ぎじゃねーんだ」

「でも、山田さんたちに早く合流しないと」

「山田さんなら大丈夫だ、ミサキがついてる。……あのさ」


 そう言いつつ、天馬先輩が視線をそらす。


「一つ、聞きたいんだけど……」

「はい、何でしょう」


 言いづらそうに、天馬先輩が言葉をつむぐ。


「お前のこと、ミスズって、呼んでもいいか?」

「……はい?」

「あ、嫌ならいい! マサキのことをマサキって呼んでるから! お前のことだけ、名字ってのはと思ってさ!!!」


 あわてて言葉を続ける先輩に、私は自然と頷いていた。


「いいですよ、そう呼んで頂いて」

「ま、マジか」


 先輩がはにかんだ笑いを見せてくれた。そして頭をかく。


「俺のことも……さ」

「はい?」

「その……あの……」


 言葉をにごらせる、先輩。なんだか顔が赤いです。


『アキトは、ミスズさんにアキト先輩と呼ばれたいのですわ』


 ぴょこっとかばんの中から顔を出すペガさん。


「ち、ちげーし!!!」

『そうなのだ? だったらそう呼んであげるのだ』


 トシローさんも鞄から顔を出す。

「ち、違うからな! 気にしなくていいからな!」


 そう言う先輩ですが。なんだか呼んでほしそうなので。


「あ、アキト先輩って、呼んで、いいですか……」

「いいっ! いいけど! 恥ずかしいから今はヤメテ!」


 先輩、キャラが崩壊してます。

 私もついつい、恥ずかしくなって結局一気に、飲み物を飲み干してしまいました。


♦♦


「よかったですね、無事にプレゼントが買えて」

「みなさんのおかげで、プレゼントが選べました。本当にありがとうございました」


 きれいにラッピングされた袋を腕に抱えて、山田さんはほくほくした表情です。


「それじゃ、私たちはこれで」


 スーパーの前で、私たちは別れた。

 とはいっても、山田さんとマサキさんは、別行動です。

 なんでも、女子力アップ講座を開催するのだそうで。

 私も行けばよかったでしょうか……。


 手首を見たら、リボンの上の魔法石がきらきら輝いている。


 思わず、鞄の中に入れていた再試験の書類を見直してみた。


「わぁ……」


 一番、二番、三番とあったクリアしないといけない課題。そのうちの二つに、丸がついていた。


『あと一つなのだ!』


 トシローさんが嬉しそうに言う。


「本当です。あと一つ、とんがり帽子と魔法石を盗んだ人を見つけることができれば!」


 なんだかやる気が出てきました!

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