好きという気持ち

「お、お待たせ、し、しましたっ!」


 待ち合わせ場所に少し遅れ気味にやってきたのは、同じクラスの山田さんだった。

 後ろで二つくくりをしている髪、丸眼鏡の彼女はカチコチに緊張していた。


「み、みなさんが、魔女さんですか?」

「うん。あたしは、魔女その一だよ」

「どうも、魔女その二です」

「……魔法使いその一だ」


 マサキさんの冗談に、天馬先輩まで乗っかったのは意外です。


「今日は、ありがとうございますっ」

「よし、まずは自分を磨こうか、うん」


 そう言ってお手洗いに連れていこうとするマサキさん。


「こら待て、そういうのは最後だ」


 天馬先輩が言う。


「化粧とかそういった類は、お前に任せる。けど、それは最後だ」

「え、任せてくれるの? やったぁ」


 ミサキさんが笑顔になる。


「今日の元々の相談は、好きな相手に贈るプレゼント選びだ、そうだな?」

「は、はいいいっ!」

「ちょっとアキト先輩、もうちょっと優しくしてください。怖がるでしょ」

「俺は元々こういう顔なの!」

「顔じゃなくて、口調のこと! そうだ、語尾を伸ばしてみなよ」

「こうすればいいってかぁ?」

「あ、駄目だ怖いわこの人」

「あ゛あ゛?」


「山田さんの好きな人は、どんな人なんですか?」

「ひいいいぃ! 好きな人はっ、言えませんっ」

「うん、名前は聞かない。好きな人の性格とか、教えてほしいんだ」


 好きな人の話って、どこからウワサ広がるか分からないからねぇ、とマサキさん。


「女子は怖いからな」


 天馬先輩まで。まぁ確かに、間違ってはいない気もしますが。


「好きな人は、私と同じで、地味な人です……」

「えぇ!? そこは自分にないものを持っている人を好きになるんじゃないの!?」

「いや、地味なところが一緒なだけだから。全部一緒じゃないから」


 天馬先輩が、フォローを入れますが、あんまりフォローになっていません。


「物静かな人、ということでしょうか」

「はい。……いつも、本を読んでいます」

「じゃあ、本をプレゼントすればいいんじゃない?」


 マサキさんがすかさず言う。


「いえ、どんな本を読むのかよく分かりませんし、それに、すでに持っていたら意味がありません……」


 せっかく考えてくれたのにすみません、と山田さん。


「山田さんは、その人のどんなところが好きなんですか」

「優しいところです。一度も話したことがない私が休んだ次の日、授業のノートを無言で、貸してくれました」

「山田さんって確か、学年二位の成績でしたよね? ……一位は確か、久我くん」


 そう言うと、山田さんはぎくっとした。なんでぎくっとしたんでしょう。


「そ、そうです。休んだ日、本当に気が気ではありませんでした……。授業のノートを、借りられる人、友達が、いませんから」

「ああそれ、私もそうです。一人で過ごしてることが多いから、休んだ時、ノートを借りたくても、声がかけられないんですよね」

「なんだよ、今度からあたしに声かけなよ? あたしが貸してあげるから」


 マサキさんが私を見つめて言う。


「お前、クラスが違うだろ……」

「あ、そうだ。山田さん、これから休んだらノートを貸し借りしましょう」


 すっと言葉が出て来た。驚く山田さん。


「いいんですか」

「もちろんです」

「やった! これで、心置きなく、休めます!」


 なんか、ちょっと違う気もするけど、まぁいいか。


「知ってました? 猫村さんのノート、結構有名なんですよ」

「え」

「先生の雑談まで写していると、ウワサが」


 山田さんの言葉に、天馬先輩が吹きだす。


「ひま人か」

「先生の言葉すべてをメモしたいだけです! ひま人ではありません!」


 ムキになって言い返す。山田さんも笑った。


「いいですね、みなさん、仲がよさそうで」

「そうかなぁ。まだ知り合ったばかりだよ?」


 マサキさんはそう言うけど、まんざらでもない表情。


「ささ、こんなことしてたら日が暮れちゃう。ショッピングモールに行こう」

「へ? 今から、ですか……?」


 山田さんが驚いた顔をする。


「近くのショッピングモールに行くにも、ここからだとバスで一時間はかかります」

「だーいじょうぶ。あたしたちには、魔法があるんだから」


 ね、という風に私を見るマサキさん。


「はい。瞬間移動魔法、絶対に成功させてみせます!」


♦♦


 スーパーの裏の、人通りの少ない場所。そこに私たちはやってきた。


「トシローさん、行きますよ!」

『やってやるのだ!』


 トシローさんが肉球を突き出す。


『瞬間移動魔法を使うのだ!』

「瞬間移動を使います」

『瞬間移動魔法で、四人と三匹を移動させるのだっ』

「瞬間移動魔法で、四人と三匹を移動させます!」


 少しずつ、トシローさんと私のリボンの魔法石が光り始める。


「瞬間移動魔法で、四人と三匹を移動させます!」


 ピカッと大きく魔法石が光った。そして……――。

 あたりは真っ白になった。

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