魔法のポスト作成

「いい材料が、手に入りました!」

「……本当に、これで作るのかよ……」


 机の上に広げた材料を見て天馬先輩がため息をつく。


 私達は、教室の一つに、ポスト作りの材料を持ち込んだ。

 廊下や中庭で作業をしていたら、人目につきやすいからね。


 たくさんの段ボールと、教室に置いてあったカラーマジック。


「そんなにきれいなものだと、警戒けいかいされてしまいますし」


 これでいいんです、そう言いながら同じく教室にあったカッターを手に取る。

 段ボールを切りだそうとした時、先輩が段ボールに手を置いた。


「おいおい、適当に切るつもりかよ」

「そりゃあそうですよ。後でくっつければ、なんとかなりますって」

「あのなぁ……」


 天馬先輩は、黒板にマグネットでくっついていた大きな定規を持って来た。


「少なくとも、同じサイズのものを二枚ずつ作らねぇと、立体にならねーだろーが」

「あ、本当です」


 ポストみたいにするなら、長方形にしなければとは思っていましたが。

 そうなると天馬先輩の言う通り、同じ長さのものを二枚ずつ用意しないと。

 天馬先輩が大きなため息をつく。


「魔法で作りたくねぇんだろ、手伝う」

「そんなっ。天馬先輩の手をわずらわせるわけには……っ」

「いいよ、乗りかかった船だしな」


 それに、と先輩は言葉を続けた。


「……俺には考えもつかねぇことを、お前は考えた。お前と一緒なら、何か面白いことができるような気がしなくもねぇ」


「面白い……こと?」

「この学校にいる他の魔法使いや魔女は、自分の魔法の力を高めるため、困った人を助ける方法を色々と考えている」

「この学校に他にも魔法使いさんや魔女さんもいるのですか」


 そんな身近にたくさん、魔法使いや魔女さんがいるですね、おどろきです。


「ああ。俺が知っているのは、俺ら以外に二人。他にもいるかもしれねぇ」


 段ボールに線を書き込み始める先輩。段ボールに視線を向けたまま言う。


「でも今まで俺、困った人を探す気もなかったなんだよな」

「せっかく魔法使いになったのに、ですか?」

「ああ。そもそも見た目が怖いせいで、人が寄って来ねぇしな」


 あ、自覚はあったんですね。言いかけた言葉を飲み込む。


「別に期待されてねぇし、自分のために魔法が使えればそれでいい。そのために魔法のかけらを集めていたようなもんだ」


『何かあった時のために。アキトはたくさん、魔法のかけらを集めましたわ』


 ペガさんがふわふわと浮かび上がる。

 教室には私たちのほかに誰もいないから、トシローさんも走り回っていた。


『でもここまで集められたのは、普段から魔法を使っていないせいですわ』

「魔法が使えるなら、使いたくなるのでは?」

『本当に必要になった時のために。そう言って、使わないようにしているのです』


 アキトは倹約家けんやくか、計画を立てて使うタイプなのですと、どこかほこらしげなペガさん。


「まぁ別に、使おうと思うことが少なかっただけだけどな」


 先輩は線を引き終わった段ボールの下に、何も書きこんでいない段ボールを引く。

 それから、私を見上げて言った。


「猫村、これをカッターで切れ」

『もうそこまでやったのなら、最後までアキトがやればいいのだ』

「それじゃ、意味がねぇ。これは猫村のアイデアだ。猫村も手伝わせねーと』

「ありがとうございます、それではお言葉に甘えて」


 私はカッターを手に取った。

 ゆっくりと、カッターを持つ手を動かしていく。

 先輩が描いてくれた線の真上から右に左にずれながら、切り取っていく。


『お世辞せじにも、綺麗きれいとは言えないのだ』


 トシローさんが息をはく。


だまってろ。お前がやった方が、ガタガタになる」

『失礼なのだ』

「いやお前こそ、猫村に失礼だろ。それに、問題なのは綺麗かどうかじゃねぇ」

『綺麗な方が、人が寄ってきやすいのだ!』


 トシローさんが両方のほほを膨らませる。


「まずは、自分が愛着を持てるかどうかだ。見栄えなんて、魔法でどうとでもなる」


 天馬先輩の言葉に、トシローさんが口を閉じる。


「下手でも何でもいい。自分で作ったものは愛着がわくんだ」


 最初は半信半疑でしたが完成したものを見て、先輩の言葉の意味が分かりました。

 先輩は、指示を出すだけで後の作業を私に任せてくれました。

 おかげで完成したポストさんは、ガタガタで形もいびつなものです。でも。


 でも、なんだかそれがとても愛しいものに見えて来たのです。

 天馬先輩の言った通りでした。

 自分で作ったものは、好きになってしまう魔法がかかっているのです。


「さっそく、中庭に置きに行きましょう」


 完成したポストを肩で支えながら歩き出そうとしたら、急に肩が軽くなる。

 見れば、天馬先輩が当然のようにポストさんを抱えて歩き始めた。


「運ぶのは俺に任せろ。何かにぶつかったり、お前が転んだりでもしたら努力が水の泡だからな」

「そんな簡単に転びませんっ」


 そう言いつつも、先輩を頼もしいと思う自分がいる。

 この人は、信用しても大丈夫、そんな気がしました。

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