かけら集めをするために

全然駄目だめです……」


 中庭のベンチ板は、両腕を伸ばして倒れ込む。


「小さい人助けじゃ、魔法のかけらは、集まらねぇのか。参考になった」


 納得なっとくしたように何度もうなずく天馬先輩。


「すれ違った人の落とし物を渡してあげたり、廊下の落ち葉をゴミ箱に入れるのは小さいことでしょうか……」

「小さい、っていうか小さすぎるだろ。というか、疲れるのが早すぎな」


 先生に指示をもらって雑用をしたりもしました。

 ですが、魔法のかけらは手に入りませんでした。


「多分、今回は見返りを求めての人助けだったから駄目だったんじゃねぇか」

「見返りを求めた人助け……」


 先輩が頷く。


「そう。魔法のかけらを集めるために、人助けをしたのが問題なんだ。それは、本物の人助けとは言えない」


 本物の人助け……。それって一体、どんなものなのでしょうか。


「人助けはただ目の前にいる人を助けたい、力になりたいと思うことが大切だ」


『ただ助けるだけでは駄目なのだ?』

「助けたら魔法のかけらをもらえるかもしれない、だから助けよう、じゃいけねぇってことだ」


 そう言われてみると、なんとなく、天馬先輩が言いたいことは分かる。


「自然と体が動く、それが人助けじゃねーかな」

『それじゃ、いつまでもミスズが本物の魔女になれないのだ! 困るのだ!』


 トシローが怒ったように言う。すると、ペガが大きなため息をつく。


『急いではいけません。一人の魔女を育てるのには、時間がかかるものですわ』

「困るのだ、早く魔女になってもらわないと……』


 トシローさんがうつむく。その時だった。


「あ……」

「どうした?」

「思いつきました、困っている人を向こうからこちらに呼び寄せる方法を」


 私が言うと、トシローが鞄の中から顔を出す。


『どんな方法なのだ? ワガハイ、気になるのだ』 

「相談ポストを作るんです」

「あ゛あ゛? 相談ポストぉ?」


 天馬先輩が顔をしかめる。


「自分たちで困った人たちを探すのには限界があります」

「まぁ、それはそうだな」

「ですからここに、ポストを作って悩みや困ったことを書いてもらえばいいのです」

「そう、うまく行くもんかねぇ……」


 天馬先輩が頭をかく。


「やってみないと分かりません。それに、学校なら相談者さんを会うのも楽です」

「そりゃあな」

「ということで、天馬先輩にお願いがあります」

「はぁ?」


 私は天馬先輩を見上げた。


「ポストは私が作ります。ですから困っている人、誰かに相談したいと思う人が相談ポストを見つけられるように何か、魔法をかけてくださいませんか」

「……仕方ねぇな」


 天馬先輩が大きくため息をつく。


「どうせ俺も、白帽子から黒帽子に上がりてぇと思ってたしな。ここらで何か、今までとは違うことをしてみるべきだとは思ってたんだ」

「白とか黒とか、何か色分けの意味があるんですか?」


 天馬先輩に聞き返すとペガさんが怒った声で言う。


『トシローさん! 本当にミスズさんに何も教えてさしあげてないですわね!』

『だからまだ、魔女になりたてだからなのだ。教えているヒマなんてなかったのだ』

『教えるつもりがなかったのではなくて!?』


 トシローさんとペガさんがけんかを始めてしまう。


「簡単に言うと、とんがり帽子と魔法石のついたリボンの色には、三種類ある」

「色分けに、何か基準があるんですか」

「実力によって、色が勝手に変わるんだ。最初は赤、次が白、最後が黒だな」


 ペガさんがつけているリボンととんがり帽子の色は、白です。

 あれ? トシローさんのリボンととんがり帽子の色は、違いますが……。

 帽子と、リボンの色が違うこともあるんですね。


「さて、それじゃあ私とトシローさんは材料探しを頑張りますね!」

「どこかあてがあるのか」


 天馬先輩が聞いて来る。


「一つ、心当たりがあります。まずはそこへ行ってみるつもりです」

「どちらにせよ、ポストが完成するまでは魔法はかけられねぇ。ついて行く」


 本当に天馬先輩は優しい人です。

 どうしてあんなうわさが立ってしまうのでしょう。


 そんなことを思いながら、二人と二匹で校舎の中へ入る。


 放課後の校舎には、一部の教室にしか生徒はいない。

 教室が活動場所になっている文化部の生徒しか、残っていません。


 廊下に、私と天馬先輩の足音だけが響く。

 一年生の教室が並ぶ、一階フロア。そのフロアの端に、それはありました。


「うわっ、なんだよこの場所」

「美術の先生のいらないもの置き場兼、資材置き場です」


 美鈴の学校豆知識その一、です。他にあるかどうかは分かりませんが。


「以前、授業中に先生が言っていたのです。ここを資材置き場にしていると」

「お前、よくそんなどうでもいい話を覚えてたな」

「そして、この場所の資材が勝手に増えたり減ったりしていると」

「怒ってなかったのかよ?」

「はい。時々掘り出し物も見つかるのだと言ってました」

「……絶対他の先生も、いらないもの置き場として使ってるな、ここ」


 天馬先輩が呆れた声を出す。確かに、その可能性は高そうです。


「この場所のものは持っていても問題ありません。いいものがあるとよいのですが」

『いっぱい探すのだ!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る