事象『FT-08』および『FT-08-a』

事象管理標識:FT-08



報告書一號

(当報告書は最新のものではありません。最新の報告書もしくは補足を必ず確認してください)


管理基準

B(常時監視)


発生地

[丙種機密事項]州 [丙種機密事項]郡 [甲種機密事項]地区の山林、およそ300ヘクタールの範囲


時期

[丙種機密事項]より現在まで

毎年7月20日から8月26日までの期間

なお文献検索によるとおよそ540年前には発生していたものと推定される。


対象条件

身長2m30cmから身長2m50cmまでの生殖可能年齢の女性(推定)


概要

FT-08は、特定条件下の特定人物が、特定の地域で消失する現象です。現時点では並列世界移動現象のひとつであるという説が有力です。消失した人物は一定の確率で再出現しますが、消失中に特定の条件を満たす必要があると推定されており、帰還者の多くは激しいストレスにより心神喪失状態となって見つかります。未帰還者の状況は不明です。


機関が保護した帰還者の証言(いずれも記憶処理済み)、および機関協力者を用いた再現実験により、以下のことが判明しています。

条件(発生地、時期、対象条件)を全て満たした対象は、その対象を目視している者がいない限り、即座に消失します。この目視には機械的手段を含みます。逆に光学的な観察継続以外の方法では対象の消失を防げません。生理的なまばたきは許容範囲内です。

生殖可能年齢の女性以外の条件である、身長、範囲、時期のいずれも条件が狭く、自然状態ではなかなか発生しませんが、逆に条件が全て揃えば確実に事象は発生するようです。


消失した対象の主観では、そのまま対象は森の中に迷い込み、彷徨い歩かずにはいられなくなります。そして全体的に小ぶりな村に到着します。この村は我々の知る一般的な農村に非常によく類似しており、推定・身長170cm~150cmの人間にちょうど合うサイズで再現されています。ただし道路標識等はこちら側の常識とは異なるルールで記載されており、使われている文字も未知のものです(機関協力者の記憶を頼りに再現を試みましたが、芳しい結果は出ていません)。


対象はそして、無人の村の中でたった一人だけ存在している小柄な人物を発見します。以降この人物をFT-08-aと呼称します。身長は140cmから170cm程度と一定せず、服装や顔つきも多彩ですが、大きさ以外は10代の若い男性に見えるという所は一致しています。FT-08-aはその行動から人間並みの知性を持っていると推測されるものの、言語的なコミュニケーションは不可能で、常に「ポポポ」と奇妙な声のみを発します。こちら側の発する言語も理解できないようです。


対象はFT-08-aを発見した後、いかなる行動を取ったとしても、すぐに小さな村から脱出できないことに気付きます。機関協力者の証言および催眠術を利用した心理分析から、何らかの認識阻害が行われていること、その要となっているのが小さな村に四体確認されている奇妙な石像であることまでは推測されていますが、詳細や対処法は不明です。


対象が村の脱出が不可能だと理解した段階で、対象には奇妙な強迫観念が芽生えます。それは「FT-08-aを殺さねば帰ることはできない」、というアイデアであり、以後対象はその強迫観念に強く支配されます。そして帰還者および帰還に成功した機関協力者は、いずれも何らかの方法でFT-08-aの殺害を実行し成功していることから、これこそが帰還のための条件であると推測されています。


ただし対象は強迫観念と同時にFT-08-aに強い愛着を抱くらしく、殺害行為は非常に強い葛藤を伴うものとなります。殺人そのものの精神的負荷と合わせて、帰還後に迅速な記憶処理を受けない限り、対象は深刻な心理的ダメージからほぼ確実に廃人と化すことが分かっています。


FT-08-aの殺害を完了すると、村からの脱出を妨害していた認識阻害が解除され、対象は「もと来た道」を「発見」します。その道を辿ることで、こちら側に再出現することができます。

対象の主観による経過時間とは関係なしに、外部観察者の視点において、消失から再出現までの間の時間は2時間30分から6時間42分まで(平均4時間48分)です。この時間について、詳しい規則性は分かっていません。


現在、当該地域は機関の管理地となっており、人の出入りは終日監視されています。しかし過去には[丙種機密事項]件の事故が発生し、一般人が入り込んで当事象の対象となっています(関係者も含め全て記憶処理済み)。

現在、機関協力者を用いた再現実験は行われていません。


補足資料

[●●郡郷土資料館電脳資料庫 「おはちの嫁入り」]




報告書一號 補足の一

(当報告書は最新のものではありません。最新の報告書もしくは補足を必ず確認してください)


事象『FT-08』および『FT-08-a』については報告書一號本文を参照下さい。


エニグマネットワーク上の『電脳黒板弐番街』の[丙種機密事項]において、当事象の発生報告が確認されました。

この事例は機関の把握から漏れていた事象発生事例であり、FT-08の88番報告として登録されます。

即座に機関の関係者の手により電脳黒板は遮断され、記載者の同定と尋問、記憶処理がなされましたが、機密漏出事例としてここに記録します。

なお、同報告では対象となった人物はFT-08-aの殺害に失敗し、代わりに小さな村において石像を破壊することで脱出に成功したと報告されています。尋問によっても同一の証言が得られていますが、これによる当事象への影響は不明です。




報告書一號 補足の二

(当報告書は最新のものではありません。最新の報告書もしくは補足を必ず確認してください)


事象『FT-08』および『FT-08-a』については報告書一號本文を参照下さい。

補足の一については補足の一本文を参照下さい。


補足の一で実行した情報遮断処理にも関わらず、機密漏出が進行しています。

機関は機密の完全遮断を断念し、偽装情報流布を二件実行します。


一つ目は、偽りの発生地情報の流布。あえて真実と異なる位置情報を複数流し、無害な土地への誘導を図ります。うち一件については時機を見て記念の石碑の建立まで行います。

二つ目は、無害なキャラクター化。機関の影響下にある電脳画家を利用し、FT-08-aを『五尺くん』という架空のキャラクターとして確立させます。実話ではなく架空の話と認識させることで、現地に向かおうとする者を減らします。


上記偽装作戦のために、当機関の工作部隊を二部隊、この任務に使用します。




報告書一號 補足の三

(当報告書は最新のものではありません。最新の報告書もしくは補足を必ず確認してください)


事象『FT-08』および『FT-08-a』については報告書一號本文を参照下さい。

補足の一については補足の一本文を参照下さい。

補足の二については補足の二本文を参照下さい。


補足の二で実行した偽装策が想定以上の成功を収めました。

偽装石碑の建立は完了。現在、ひっきりなしに人の訪れる一大観光地となっています。

キャラクターとしての『五尺君』はエニグマネットワーク上で大ヒットし、性別逆転した『五尺ちゃん』などの派生キャラクターも生んでいます。有志出版の絵物語も複数、刊行が確認されています。


偽装作戦および監視のための人員を増員します。専門部隊として暗号名『五尺君ファンクラブ』を設立し、専任とします。




報告書一號 補足の四

(当報告書が最新の報告書です)


事象『FT-08』および『FT-08-a』については報告書一號本文を参照下さい。

補足の一については補足の一本文を参照下さい。

補足の二については補足の二本文を参照下さい。

補足の三については補足の三本文を参照下さい。


当事象について、管理基準を変更します。

B(常時監視)→ F(監視なし)


当事象の情報管理は失敗しました。

機関による当事象の管理を放棄します。

専門部隊『五尺君ファンクラブ』は機関の所属から外れ、独自活動(五尺君キャラクターグッズ販売など)に移行します。

当事象についての報告書のみ、以前と同様のレベルの機密として保管されます。

本決定の後、当事象についての報告書の更新は行わないものとします。

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