決戦2

「チッ、結局は政府軍がいいとこどりだ。

 女も連れていっちまった」

「報酬もすっぽかされねえか怪しいもんだ。

 なあ?」

 と、遺跡内のT字路で警備していた二人の男は、後ろのもう一人の方へ振り向いた。

 しかし、その男は屍となって転がっている。

「おい!」

 と叫んだ男の後ろで、ゆっくりと撃鉄が引かれた。


 T字路の先の崖下では、遺跡の入り口を警戒する兵士が群がっている。

 その頭上へ2つの死体が降ってきた。

 騒然となって上を見上げると、次には銃弾が男たちへ降り注いだ。

 崖の上では斎藤が蒼龍隊の指揮をとっていた。

 下の男たちは慌てふためいている。

「もういい!撃ち返せ!」

 男たちは岩陰へ散らばると応射を始めた。

 そこへ入り口から野村率いる別動隊が突入すると、下は両軍入り交じる混戦となった。


 追っ手を引き離した庸平はというと、岩陰から敵の本隊を覗いていた。

 敵軍は庸平に背を向けて奥へ進んでいるが、その先頭に千紗がいるはずだ。

 しかし救出するには敵が多すぎる。

「今井、寺内、どこにいる?」

 応答はない。

「チッ、何してやがんだ…」

 庸平は移動して敵の隊列の側面に出た。

 岩の隙間から覗き見る。

 まだ千紗には届かない。

 もっと前を見ようと身を乗り出した、そのとき…。

「奴だ!」

 一人が叫ぶと庸平へ一斉に照明が向けられる。

「くそっ」

 前方へ駆け出した。

「庸平!」

「急げ!行くぞ!」

 後方で千紗の声が男たちにかき消された。

 さらに男たちは壁の隙間からなだれ込み、庸平を追う。

 一目散に駆け抜ける庸平の右前方から、不意にナイフが突き出された。

 それを仰け反って避けると、ナイフの持ち手はその姿を現した。さらにその後ろから敵がゾロゾロと続く。

 背後には追っ手が迫っている。


 正面の男は庸平の顔めがけてナイフを突き込んだ。その腕を左手で払い下げると、上から相手の首へナイフを突き返した。

 倒れる男の後ろから、今度は別の男がナイフを振り下ろす。

 それを下がってかわした庸平だったが、その胴へ背後から激しい廻し蹴りが繰り出された。

 間一髪、膝と肘を寄せてカバーしたが、前から入ってきた男がよろめいた庸平の顔に拳を入れた。

(こりゃ、さすがに多すぎる…)

 さらにみぞおちへ前蹴りが入り、庸平は岩壁へ叩きつけられた。

 地面にずり落ちた庸平を男たちが囲む。

 まだ視界のぼやける中で目をこらすと、男たちの足の間から道が伸びている。その先からは、水の流れる音が聞こえてきた。

 さっきの湖につながっているのか?

「とうとう年貢の納め時だな」

 一人の男がとどめを刺そうと近寄ったとき、庸平の懐から何かが放られた。

 次の瞬間、それは巨大な爆発音をたてて閃光を放ち、男たちは思わず目を覆った。


「う゛っ」

「ぎゃっ」


 何人かが鈍い悲鳴を上げたかと思うと、男たちの背後で何かが水に飛び込む音がした。

 再び目を開いた時には庸平の姿はなく、死体が3つ転がるのみであった。

「くそっ、奴を探せ!」

 男たちは四散して走り出した。


 庸平は遺跡の入り口近くまで流されていた。

 なんとか陸地まで這い上がると、その場に横たわった。

「斎藤!千紗を見つけた!

 だが敵が多すぎる」

「今どこだ!」

 斎藤の声の奥からは戦闘の音がする。

「戻ってきたよ。

 もう一度追いかける。手ぇ貸せ」

 そこへ高橋の声が飛び込んだ。

「桐野!今井と寺内が置いた発信器で遺跡の全体像がわかった!」

「千紗の場所は?」

「バッチリだ!」

 道の奥から無数の足音が近づいてきている。

「よし」

 庸平は飛び起きた。


 斎藤は崖上のT字路で交戦していた。

 その背後で、敵の一人が蒼龍隊の太田を突き伏せて馬乗りになっている。

 気づいた斎藤は眼前の敵にとどめを刺すと、太田の上の男を顎から蹴り上げた。

 仰け反った男の襟を掴むと、みぞおちへナイフを刺し込み崖下へ突き落とした。

 下ではまだ敵と蒼龍隊が入り乱れている。

 そこへ、奥から飛び込んでくる庸平が斎藤の目に留まった。

 その後を追う男たちが庸平を壁際へ追い込む。

「チッ、あいつあんなとこに…」

 斎藤は柵に手をかけた。

「太田!援護しろ!」

 そう叫ぶと柵を越えて崖へ飛び降りた。

 太田は慌てて崖下の敵へ銃を放つ。

 敵が倒れたところへ斎藤は受け身をとって着地すると、庸平を囲む敵へ突進した。


 庸平は敵の向ける銃口から身体を反らし、背中へ回って首を裂く。正面の敵が振りかざしたナイフをかわしながら、みぞおちへ蹴り込み。

 その足で背後から迫る敵へ後蹴り。

 さらにかかってこようとする敵の首に、ナイフが突き刺さった。

 その飛んできた先には、斎藤が立っている。

「なに道草食ってんだよ」

「てめえこそ、援護がなってねぇんだよ」

「これで満足か?」

 斎藤は振り返ってナイフを投げると、さらに右から突っ込んできた敵の腕を掴み左へ投げ飛ばす。

「行くぞ」

 二人は並んで駆け出した。

 行く手に男二人が現れる。

「先に行け」

 斎藤は二人へ突っ込むと一人のみぞおちへ右肘、さらにその背中へ飛びつこうとする男の顎へ左肘を入れた。

 庸平はその脇を走り抜ける。

 しかしその前にまた男三人が立ち塞がり、銃を構えた。

 瞬間、三人の照準の先から庸平が消えた。

 庸平は中央の男の足下に滑り込んだ。

 男が庸平の上へ倒れ込む。

 倒れてくるその首を掴むと、庸平は男の額へ拳銃を撃ち込んだ。

 さらに仰向けになり右の眼鏡男の足首を撃つ。

 悲鳴を上げて倒れる眼鏡と入れ替り庸平が上になった。

 その背後からもう一人が迫る。

 しかし庸平が眼鏡にとどめを刺したとき、背後の男の顔に斎藤の廻し蹴りが入った。

「よし、片付いたぞ」

「ああ、行こう」

 立ち上がった庸平の耳に高橋の声が入った。

「桐野、前を見ろ。

 左に道が分かれてるのが見えるか?」

「ああ、あれが千紗に繋がるのか?」

「そうだ」

 庸平は服の埃を払うと、斎藤の方を向いた。

「ここからは一人で行く。

 お前は蒼龍隊と脱出の準備をしててくれ」

「大丈夫かよ?」

「ああ、助かった。恩に着る」

 不馴れな礼を述べると、振り向きもせず駆け去った。

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