第9話 試合開始!

「これが、eスポーツがeスポーツと言われる所以か……」

「どう悠人、痺れるでしょ?」


 そう言った由奈ゆいなは、好戦的な笑みを浮かべていた。


「確かにな。ちょっと、懐かしい感覚だよ」

「それって――」


 由奈ゆいながなにか言いかけた時、会場が沸き立つ。トーナメント表がステージ上のディスプレイに表示されていた。

 トーナメントはA~Dの4グループに分かれる。

 各グループの1位しか決勝リーグ戦に進めない。そのため、重要になってくるのは、、運だ。

 今回の難敵は、もちろん〝謎の天才女子高生ゲーマー〟と言われてる人のチームだ。

 チーム名はweazelsウィーゼルズ

 プレイヤーネームはみくう。

 トーナメント表から俺たちのチーム名を探していてふと気づく。


由奈ゆいな、俺たちのチーム名って何なんだ?」

「あッ、Itemアイテムよ」


 俺は、ステージ上に目を向けたまま、なんとなく尋ねた。


「それって、どういう意味なんだ?」

「……」


 ちょうど、俺たちのチーム名を見つけて横を見ると、


「俺たちはCグループで、weazelsウィーゼルズはA――」


 そこには、俺に背を向けた状態の、それでも耳まで赤く染まっているのがまるわかりな由奈ゆいながいた。


「って、由奈ゆいなどうした?」

「な、なんでもないわよ……」


 今にも消え入りそうな、弱々しい声で呟く由奈ゆいな

 明らかに、なんかあるだろ。


「熱でもあるんじゃないか? とりあえずどこかに座ろうぜ」


 そう言って、由奈ゆいなの手を引こうとすると。


「だから何でもないって……」


 繋ごうとした手は由奈ゆいなが急に振り返ったせいで空を切り、由奈ゆいなは背負っていたバックパックを片手で持つと、


「言ってるでしょ……」


 鋭く踏み込んで、胴を軸にした回転力でバックパックを――

 俺の嗅覚が危険を察知したのは、


悠人ゆうとのバカアァァーーッ!!」

「あbッ――!」


 ――振り抜いた。

 バックパックが視界の90%を占めた後だった。


 ◇◇◇


『それでは、Aグループ一回戦。試合開始!』


 鼻先がヒリヒリする中、進行の真雪まゆきさんの掛け声で、10チーム、5試合が始まった。

 注目のカードはweazelsウィーゼルズLostPalaceロストパレスの一戦。

 今も、weazelsウィーゼルズの強さを見極めようと2チームの周囲には人だかりができていた。

 かくいう俺たちもその一部だったりする。

 人だかりを押し分けて、最前列まで行く。


「あれがweazelsウィーゼルズのメンバーか」


 まず目を引き付けられたのは、黒髪ロングの女子。

 すらりと伸びた手足。

 黒タイツから透けて見える柔らかなラインの太もも。

 斜め後方から見てもはっきり分かる豊かな双丘。

 おまけに目鼻立ちの整ったきれいな容…


「…姿いィィーーッ!」

鶴岡香織つるおかかおる!?」


 遅れてやって来た由奈ゆいなの表情も驚愕で埋め尽くされていた。


 そう、そこにいたのは孤高ボッチな才女、香織かおる先輩だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る