第58話 鬼灯



鬼灯(ほおずき)の小さな白い花もすっかり無くなり

赤い焔のような実が付き出す頃の散歩道

街路には銀杏の落ち葉があちこちに積もり

あの夏の日の思い出は

足音さえも残さない過ぎ去りし日々

何処へも行かないと思っていた

今は懐かしい時となった愛おしい日々よ

もう戻らない時間を返せとは言わない

せめて忘れないように心に刻ませてみようか

秋の陽射しを浴びて赤い蝶が舞い

名も知らぬ花にとまる

せめて此の蝶のように

甘い蜜を心に注ぐことができるのなら

慰めにでもなるだろうか

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