第13話 お会計ーVer.ふぶきー

「お会計ぃ!!」


私がお手洗いから戻ってすぐに、しゅんすけさんがそうさけんだ。

今にも吐きそうな顔で。


…………大丈夫ですか?そろそろマズイ気がしてきたんですけど。


「ちょ、声が……」


私は周りの人の視線が集まっているのを感じて、彼を落ち着かせようと諌めた。


「畏まりました。お客様、券などはお持ちですか?」


いきなり音もなく現れたハンサムなお兄さんが微笑みながら言う。


「あぁ、これです?」


しゅんすけさんが懐を漁って薄い紙切れを一枚取り出して、お兄ちさんに渡した。


「はい。こちらです。」


ニッコリしながらお兄さんが彼の券を回収して、判子を押す。

うわぁ、あれ木で出来てる。かっこいいなぁ。


「私も……。」


私もたぶん彼と同じ券を差し出した。

ちょっと恥ずかしいけど、コレを使わないととても私が払える額じゃなさそうだし。


「受け取らせて頂きました。失礼します。」


きれいにお辞儀をしたお兄さんは去っていった。


「ふぶきちゃぁんは、何で帰る?」


っ!びっくりしたぁ。急に名前で呼ばないでほしいな、心臓に悪い。


「家が近いので歩きです。」


私はお母さん待ってるかなぁと考えながら答えた。


「おぉ奇遇だね!!俺も歩きよ!!」


なんか左右に体を揺らしながらしゅんすけさんが手で銃の形を作る。

なんだろうこのポーズ?


「ちょっ!危ないですって!!タクシー呼びますから待っててください!」


私がその手の形を考えていると、しゅんすけさんが立ち上がってよろよろとあるき出したので、急いで止める。

このまま帰るのは危ないですよ。


「えぇ大丈夫よ。いけるいける。」


しゅんすけは私の肩を叩くけど、足元がやばいですよ。

生まれたての子鹿もびっくりのガクブル具合ですよ。


「だめですっ!」


私は渾身の怒ってますよアピールをして彼の肩を支える。

体が密着して恥かしいけど、このままだと危なっかしくて見てられない。


「ちぇー」


彼は子供のような抗議の声を上げながら、しぶしぶ自分の席に戻った。


「もしもし………。」


私はそんな彼の姿を横目に、タクシー会社に連絡する。

さすがに、こんなに酔ってる人を歩いて返すわけには行かない。

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