第24話/奇襲

そして、唐突に爆破の音が聞こえると共に、扉が破壊された。

俺はその音に驚いて体をビクつかせる。そして背後を見れば、土煙と共に出て来る男の姿があった。


「はお~」


可愛らしい口調だ。

それが髭面のおっさんが発した言葉で無ければ、だが。


「鬼童膝丸……」


聖浄潔良さんが苦虫を噛み潰した様な顔を浮かべた。

あのおっさんに何かしらの因縁があったのだろうか。


「誰ですか?」


「鬼童家の棟梁、鬼童きどう膝丸ひざまるです。十三家の三大派閥の一角に属する男、尤も危険とも称するべき敵です」


そう言って二メートルほどの大きな男が入り込んでくる。

隆々とした筋肉。片手には手斧、もう片方には大槌と言う脳筋全開な装備だった。


「ん?あれえ、聖浄ちゃんじゃねぇの。いやぁ、変な流力の波動を感じたからってお嬢に言われて来て見りゃ、成程、こんなボロの教会に隠れてやがったのか」


「変な流力?」


俺が聞くと、おっさんは槌を手から離して地面に落とす。

ずしん、と地響きが鳴ると、石突に肘を付けてくつろぐ格好をする。


「聞く限り、正体不明の流力、神の力が混ざったモンだと言ってたんだがなぁ、まあ、聖浄ちゃんじゃねぇのは確かだ。つぅ事は、お前か?変な流力って奴は」


変な流力って、そんなの、俺に聞かれても分からない。


「……周辺には隠匿の術具で隠していましたが………」


「あぁ、別に聖浄ちゃんを見つけようとしてきたワケじゃねぇのよ。マジで、変な流力を感じたから確認しにいってくれって言われただけで……けどまあ、儲けモンだよなぁ。聖浄ちゃぁん」


嬉々とした表情を浮かべておっさんこと、鬼童膝丸が槌を構えた。


「俺ぁ、聖浄ちゃんの事、好きでよぉ、小せぇ頃は、あんなに弱っちかったのに、今じゃあ俺らに盾突く脅威に変わっちまってんだからよ、俺ァ、強い奴が好きなんだよ、熱いバトルが出来るからなぁ」


「聖浄さん、戦えますか?」


俺は彼女の恰好を見た。

戦闘向きじゃない、ブラウスに長スカート。

装備しているとすれば、術具を確認出来る眼鏡くらいだろうか。


「三分、いえ、一分もあれば、戦闘用に着替える事が出来るのですが……」


「……」


正直、一分も持つか分からない。

俺の装備は防御用の『骨殻』と、暈宕泰心が所有していた『ナイフ』の二つ。

見ただけで分かる、あのおっさんは強い。例え、今の聖浄さんが戦っても一分も持たないだろう。


「おいおいおいおい、こそこそ話をしてんじゃねぇよ。バトルだろ?血潮滾る熱い闘争の時間だろうがよぉ!」


「……分かりました、ですが、私は万全ではありません……少しお時間をください」


「聖浄さんッ!?」


何を馬鹿正直にッ、そんな事言ったら、相手は丸腰だと判断して襲って来るかも知れないだろ。

仕方が無い、俺は聖浄さんを守る様にナイフを構える。

おっさんは、片手に持つ手斧を大きく振りかぶって……地面に置いた。


「なんだよぉ、早く準備しろよなぁ。十分まで待っても来なかったら追いかけっこだぞぉ……ほら、急いだ急いだ」


……え?


「待つ、んですか?」


「丸腰の相手ぇ叩いて勝ったなんだ言うなんざぁ俺の性分じゃねぇからなぁ……お前はどうだ?ちゃんとした武器揃えてるか?なんなら貸してやろうか?」


そう言っておっさんが俺に向けて手斧を渡してくる。

いや……おっさんが軽々振るってるけど、俺じゃあその手斧は両手斧くらいにデカいんだよな……。



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