第23話/理由

「伏間くん、貴方に一つ、言う事があります」


聖浄さんは畏まって話を切り出した。

俺は食器を椅子の付近に置いて、彼女の目を見て話を聞く。


「十三家は協力体制ではありません。むしろ、互いを嫌悪し、迷宮を独占しようと活動している者が多いです。少数人数である私、聖浄家は他の術師に狙われています」


「狙われている?」


十三家って、そんな危ない奴らなのか?


「はい。先程も言いましたが、迷宮の独占をするため、または、この迷宮終わらせない為に、妨害をする術師も存在します。迷宮攻略を目指す人間は少なく、私の様な討伐任務に責任を置く者は逆に討伐対象なのです」


「前提がおかしいですよ。だって、十三家は、討伐する為に迷宮に来たんですよね?」


政府って聞いたから、かなりのお偉いさんから、それをする様に命を受けたのならば、それを第一に活動するべきだ。


「最初期は信念を志しにする術師は居ました……が、政府が術具の提供を行う事で報奨金が発生する。莫大な富を得た術師たちは、信念よりも安定を求めた。生かさず殺さず活動すれば、半永久的に家系の安泰が保証される。何よりも、政府直属の命令を受けた家系と言うものは、其処らの術師の家系よりも上に値する。この時点で地位と富が確約されているのです。甘い汁を啜って生きたいと願うのならば……私の様な迷宮攻略者は邪魔な存在となる」


なんだよそれ。

彼にも、命令された事ならば、順守して、達成するのが役目じゃないのか?

そりゃ、この迷宮は酷い程に至難だ。困難で、命を落としても仕方が無い仕事でもある。

けれど、それを投げ捨ててまで、自分の欲によってこびり付くのは違うだろ。


「さて、前提は此処までです。伏間くん。私は近いうちに術師からの攻撃を受けるかも知れません。それでも、私と共に活動しますか?」


その質問は、俺の身を案じての事だろうか。

嫌、違うな、ここまでわざわざ話したのは、聖浄さんは俺を仲間に引き入れようと思ったからだ。

もしも断れば、じゃあこのまま別れましょう、と言う事にはならない。

他の術師に引き取られてしまえば、彼女の存在を脅かすものとなる。

これは脅しだ。仲間にならなければ、此処で始末すると。


「こんな迷宮、早く潰しちまえば良い。……良いですよ、聖浄さん、俺も手伝います」


どちらにしても、俺が彼女の勧誘を断る理由は無い。

だって、やっと見つけたのだ。

誰も彼も犠牲にして、一人のうのうと生きてしまった、生きる理由の無い俺に、生きる為の理由が其処にある。


「ぶっ潰しましょうよ、迷宮を」


聖浄さんと共に、この迷宮を壊す。

それが俺の生きる理由となった。

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