第25話/逃走

なんだか気の良いおっさんに見えるけど。

これから、このおっさんと戦う事になるんだよな。


「その術具、何ていう術具なんですか?」


俺は試しに聞いてみる。

これは別に答えても答えてくれなくてもどっちでも良い。


「この手斧はなぁ、振れば斬撃が飛ぶ『飛び鼬』つってな、そんで、こっちの槌は『噴き土竜』、衝撃波を地面に伝播させて相手に衝撃を叩き付ける術具だぁ」


試しに、おっさんが立ち上がって手斧を振り下ろす。

すると、礼拝堂の椅子を真っ二つにして、更に壁までが切り傷が出来てしまった。


「そいそいっよいしょい!!」


そして、もう片方の術具で地面に叩き付けると、周囲の椅子が思い切り浮かび、そして宙を舞いながら木製の椅子が破壊されて木材と化した。


「てな感じだ。どうだ強いだろ?」


「そ、そうすねー」


確かに強いな。

俺の術具で対処可能だと思いたい。

おっさんは腕時計を眺めていた。

もうじき、十分になりそうだった。


「おおおい!聖浄ちゃんよぉお!!もう始めっけどぉ!準備は良いかぁ!!?」


そう叫ぶが、返事が無い。

俺とおっさんは、同時にある事を思った。

もしかすれば、聖浄さんは既に逃げているのかも知れない、と。


「しょうがねぇな、鬼ごっこか。兄ちゃんどうする?まずお前とバトっても良いけどよ」


手斧と槌を持ち上げて、おっさんが俺に近づいてくる。

動く度に、その髭で作った三つ編みが左右に揺れた。


「良いっすよ……やりましょう」


俺は、聖浄さんが逃げているのなら、それで良いと思った。

だから俺は、ナイフを構えて、おっさんと戦う覚悟を決めた。

その瞬間だった。

礼拝堂の奥にある倉庫の扉が破壊されて、けたたましい音と共に飛び出て来る聖浄さん。

彼女は、バイクの様な術具に跨って接近して来た。


「ひゅぅうう!!良い術具持ってんじゃねぇか!!さあ、やろうぜぇ聖浄ちゃああん!」


そう叫び、手斧を振り翳すおっさん。

聖浄さんは手に握り締めるソレを地面に向けて投げる。

ぱん、と音がなって、目を潰す程の眩い光が周囲を包み込んだ。


「ぐ、ぅ!」


俺は目を抑えた。同時に、風と共に体を掴まれる。

聖浄さんが移動しながら、俺の体を片手で抱き留めていた。


「退きます、伏間くん」


そう告げて、俺は彼女の体を強く抱き締めた。

なんとか、高速移動しながら、バイクの後ろに乗ると。

教会を破壊しながら出て来るのは、笑みを浮かべて楽しそうに笑うおっさんだった。


「良いねぇ!鬼ごっこ!!捕まえてやるぜェ!!」


そう楽しそうに、戦闘欲で汚れた表情を浮かべながら、鬼童膝丸が追跡して来た。

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