第18話/夢現

そして俺は夢を見た。

それは礼拝堂となんら変わり無い場所で、ただ確かに夢だと認識出来るのは、お腹を擦る彼女の姿が其処にあったからだ。


「……」


「まあ不機嫌。どうしてそんなお顔をするのかしら?」


俺の座る椅子の隣に座って、彼女は不思議そうな表情を浮かべた。


「あんた、悪い神なんだってな」


聖浄さんが言う事が本当ならば、彼女とこうして喋る事自体、してはいけない行いなのだろう。


「えぇ、ねいたんは、多くの人間を夢の中に閉じ込めて楽しんでる、悪い子なの」


そして彼女は俺の言う事を否定する事無く頷いた。


「……なんで俺に憑く?」


「貴方が封印を解いてくれたから、貴方はねいたんにとっての白馬の王子様なの」


顔を此方に向ける。

嬉しそうな表情、妖艶な笑み、火照る表情には、死体の様な冷めた目が此方を覗いている。


「だから世界中の人間を殺す事になっても、貴方だけは生かしてあげるわ、私の素敵な夢の中で、一生ね?」


邪神の片鱗が見えた様な気がする。

俺は溜息を吐いて顔を上げる。


「他にも、何か理由があるんだろ?」


「………ん?なんでそう思うの?」


夢現の目が細まった。


「別に、大した理由は無い……俺は自己評価が低い男だからね……大抵、相手が擦り寄ってくると、何かあるんじゃないのかと思ってしまうだけだよ」


「………ふふ、ねいたんは、貴方が気に入ったの。それは本当よ?じゃなければ、子を成すなんて真似、しないもの」


腹を擦る。

絶世を超える美女である事には変わり無いが、何かしら、彼女に対する恐怖を覚えつつあった。


「とりあえず、あまり俺に関わらないでくれ、なんだか怖いんだ、あんたは」


「そう?まあ、言われなくても……ねいたんは産休に入るから、少しだけあえなくなると思うわ……それに」


と。俺の首元にぶら下がる術具に触れる。


「神と同等の力を宿す術具……こうして夢の中で干渉は出来るけど、現実の貴方と会う事は難しくなりそうね」


この術具、大した効果だ。

邪神の行動を少なくとも制限している。


「それじゃあ、そろそろ夢から覚める頃ね……じゃあね、ぱぱ」


「パパって言うな」


「認知してくれるのよね?」


「しないと言ったら?」


「言わないでしょう?」


……まあ、流石に、言わない、とは思うけど……。

段々と景色が薄れていく。夢から覚めていく。


夢現は俺に向けて手を振って、そして俺の視界は一瞬の暗転に変わる。

二秒、体感でそのくらいだろうか。

再び目を覚ました時、俺は夢と同じ光景の礼拝堂へと戻っていた。

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