第17話/食事

灰色の空を覆う程の森林の葉。

十数分程歩いた先に、其処にそれはあった。


「教会?」


古惚けた教会だった。

改修作業などしていないのか、壁が剥げて鉄骨などが見えている。

窓硝子も割れていて、廃墟となんら変わり無い場所だった。


「此処が拠点です」


そう言って、聖浄さんは扉を開いて中に入って行く。

俺も後に続いて、教会の中へと入った。

中は意外にも掃除をされていて、清潔な空間だった。


「少しお待ちください」


そう言って礼拝堂を抜けて奥へと向かっていく。

数分ほど、俺はその場に待機していて、聖浄さんが何かを持ってきてくれた。


「衣類です」


そう言って俺にそれを渡してくる。

衣服は真っ白なシャツと鼠色のズボン。

あり難く思うのは靴下やサンダルを用意してくれた事だ。

如何に体がボロボロでも、地面を踏んで歩く以上、足には永続的なダメージを受ける。

それを抑える為の緩衝のサンダルは涙が出る程柔らかかった。


「暫くお待ちください、食事を用意します」


そう言って。聖浄さんが再び礼拝堂から出て行った。

俺は椅子に座って息を吐く。

今日は一日中歩きっ放しで疲れた。


「………」


このまま眠ってしまいそうだったが、食事と聞いては睡眠欲よりも食欲が勝ってしまう。

五分ほど時間が経過して、聖浄さんが食事を持ってきてくれた。

ゴロゴロと沢山の具材が転がるシチューと、輪切りにされたパンだ。


「残り物ですが」


十分すぎるご馳走だった。

乾ききった筈の咥内が唾液によって潤って来る。

俺は彼女から料理を手にして食べようとするが。


「……此処、飯を食べて良いのかな?」


仮にも礼拝堂だ。

神に祈る場所での飲食は大丈夫なのだろうか。


「この地に神は居ませんよ、私も、神に仕える者ではありません」


それを聞いて、なら何故シスターの服を着ているのかと聞こうと思ったが、止めた。

両手を合わせて「いただきます」と呟いて、俺は料理を貪る。

シチューは濃厚だった。野菜が溶け込んで、旨味が凝縮されている。

パンはただ硬いパンでしかなかったが、強く噛み締めれば、麦の甘さを感じられた。

シチューに付けて食べると、パンに程好く沁み込んでずどんと腹に溜まってくる。

人生で一番うまいと思える食事だった。

早々に平らげて、俺は空になった容器を聖浄さんに渡した。


「御馳走様でした……いや、本当に、上手かったです」


「そうですか」


そう言って彼女は食器を片付けに奥へと入って行った。

残った俺は満腹感を抱きながら目を瞑る。

なんだか疲れて眠ってしまいそうだった。

……眠れば、あの夢現に会えるのだろうか。

いや、それは無いな。

聖浄さんがくれたものがあるから……多分、あの夢現とは出会わないんだろう。

そう思って……俺は眠りに付いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る