第16話/懇願
「聖浄さん、あんたは何処に行くつもりなんですか?」
俺は聖浄さんの後ろを付いて行きながら会話を行おうとした。
聖浄さんはただ前だけを見詰めている。俺以外に何か注意でもしているのだろう。
その手に握られている十字架の盾を決して緩めようとなしなかった。
明らかに警戒している様子だった。
「私は周囲の術象を斃したので、役目は終わりました。自室へと戻り、休養をします」
そう説明を入れてくれる。
自室って、拠点でもあるのだろうか。
「急な申し出で悪いと思ってるけど……聖浄さん、俺を匿ってくれ」
この迷宮から出たいと言う気持ちが無くなってしまった以上、俺には別の目的を見つけなければならない。
……なんだろう、思考になんらかの制限を設けられたかの様な違和感。
呪いを分断させる首飾りを付けていても、夢が元に戻る事は無かった。
それもそうか、夢は呪いによって消えたわけじゃない。
術具を作る為に俺の夢は材料にされてしまった。
消えたものを元に戻す、なんて効果はこの術具にはない。
超常の力を宿すにしても、それは万能ではないのだ。
「……貴方は十三家の人間では無い……ですが、門叶祝によって連れて来たと聞きます。門叶祝は十三家の人間であり、貴方は少なくとも彼女と接点があります」
「俺はあいつらとは無関係です」
勝手に身柄を拉致して、意味不明な言葉を吐いて、俺を躾と称して痛めつけた連中だ。あんな奴らの仲間だなんて思われるのが一番の屈辱だ。
「しかし証明出来るものは無い、現状、貴方は術具を持った身元不明の脅威でしかない」
それを言われて、俺は焦る。
「じゃあ……なんで、俺にこの術具を?」
首にぶら下がる術具を見ながら俺は言う。
「貴方に憑くものがあまりにも強大過ぎた故です。あのままでは、周囲に危険を及ぼす可能性がありました。歩く時限爆弾と変わらない。それを止める為に導火線を引き抜いた様なものです」
別に俺が心配だからたすけた、と言うわけじゃないらしい。
それもそうか、見ず知らずの人間をそう簡単に優しく出来る筈が無い。
彼女は安全を確保したい、だが、俺が居ては困る。
それが彼女の答えなのだろう。しかし、それは俺も困る話だ。
折角、安全な場所に避難出来るかもしれないのに、この手を逃せば確実に迷宮内部で野垂れ死ぬ。
「なら、俺に脅威が無かったら匿ってくれますか?」
「なんですか急に」
聖浄さんが振り向いた。
俺は、全ての術具……首飾り以外のものを彼女の前に投げて置いた。
「取り合えずその三つ、武器になる三節混と瓶、そしてナイフ。防具や、周囲を散策する術具には殺傷能力はありませんが……必要ならこれも聖浄さんに預けます」
「貴方に仲間が居る可能性もありますが?」
俺はベルトに挿した巻物を彼女に渡した。
「俺の術具です。それはこの迷宮内部を記す地図です。術具の在り処や術象の居場所、そして術師の位置すらも分かります。これがあれば、少なくとも俺に仲間が居ないことの証明になる、何なら、それは聖浄さんに差し上げます、なので、どうか」
俺は地面に頭を擦り付ける。
精一杯の気持ちを込めて彼女に懇願する。
「腹、減ってるんです……どうにかなってしまいそうな程に……なにも、ずっと匿ってくれ、とは言いません……一日……飯だけでも……術具は、差し上げます、だから……」
「顔を上げて下さい……」
溜息を吐きながら、聖浄さんは術具を回収していた。
抜け目なく地図にも目を通して、周囲に仲間が居ないか確認している。
「分かりました。付いて来て下さい」
そう言って、聖浄さんはナイフと『骨殻』だけを俺に返してくれた。
装備しなおすと、再び歩き始めた聖浄さんの後ろについていく。
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