第19話/起床

「あれ」


俺は椅子の上で眠っていた。

そして、その上には身に覚えの無い毛布が敷かれていた。

俺は毛布を剥がして体を伸ばす。

久々に長く眠った様な感覚だ。


「……ふぅ」


やはり、人が居ると言うのは安心感が違う。

傍に居なくても、庇護下にあると考えるだけで、神経をすり減らす様な休息はしなくても良いのだ。


「……ところで……」


聖浄さんは一体、何処に行ったのだろうか。

俺は体を起こして周囲を探る事にした。

彼女がよく奥へと引っ込んでいるから、其処に彼女が居るかもしれない。

だから、俺は礼拝堂の奥へと進んで扉に手を掛けた。


「ん?」


しかし、ドアノブを捻っても扉が開く気配は無かった。

なら仕方が無い。流石に、鍵が掛かっている場所を無理矢理開ける様な真似は控えた方が良いだろう。

それに、現状では彼女の信頼を勝ち得る事の方が重要だ。

この迷宮内部にて、門叶祝の一派ではないと言う事は大きなアドバンテージとなる。


「何処かに行ったのかな?」


俺は椅子付近に戻って毛布をたたむ。

そして椅子の下に落としたナイフを拾って、それを腰にさした。

このナイフは、あの暈宕泰心が俺に投げ付けて来たナイフだ。

あの男が保有していたナイフなのだから、少なくとも術具としての効果を宿していると思っている。

恐らく、聖浄さんは俺にも出来るだけの護身として最低限の術具を渡して来た。

この術具一つだけなら、聖浄さんは例え俺が裏切っても対処出来る、そう思ったんだろうな。


「裏切るつもりはないけど」


そう思われても仕方が無い。

俺は教会の扉を開く、空は相変わらずの鉛色で、今にでも雨が降って来そうだった。

いや、既に雨は降っているのだろう。びちゃびちゃと音が聞こえて来た。

俺は手をかざす。雨模様、どれくらいの雨量になっているのか確認する為にだ。


「……あれ?降ってない?」


俺は両手を広げたが、しかし雨が降っている様子は無かった。

これはおかしい事だった。現に、今にでも雨が降り注ぐ音が聞こえて来るのだから。


「……教会の裏か?」


俺は音の鳴る方へと向かう。

純粋な好奇心だった。

壁を手で伝いながら向かっていき、教会の裏へと顔を覗き込む。

はて、一体なんの音であるのだろうか。


「ふぅ……」


じゃあじゃあと、雨の音は次第に大きくなっていた。

俺の視界には、聖浄さんが居た。

しかし、何処か物足りない姿で、すぐに分かった事だが、彼女は修道服ではなかった。

では、なんであるか。彼女は裸体だった。

衣服も眼鏡も外して、バケツに穴を開けてシャワー代わりに体を清めていたのだ。

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