原稿用紙に収まる怖気

まがお

畦道塞ぐべからず。さもなくば、

原稿用紙ホラー



 夏の夕暮れ、少し涼しくなって来た頃。遊び回って疲れ果て、帰路につく。


 見渡す限り畑か山しかない。空の色がオレンジから赤になり始めているのを見て、門限を破らぬようにと走り始めた。


 緩くなっていた運動靴の紐が解ける。片足で踏んでつんのめってから、なんとか持ち直して屈む。蝶々結びが高校生になっても下手くそだから簡単に緩んでしまったのかもしれない。


 何回やっても結べない、夏バテで手元が狂うのだろうか。

 田んぼの間の狭い道の真ん中でいつまでも座り込んでいるわけにはいかない、ちょうど前方から足音がする。


 足音が止まる。

 被ったキャップが邪魔で、影は見えるのにその持ち主の靴すら見えない。謝罪だけして立ち上がろうか。


 顔を上げる。空が見えた。

 背後に何かの、気配が。


『邪魔』


 人間の手じゃない、もっと大きな何かが背中を押す。

 突き飛ばされたその先は、



 大口を開けた暗闇だった。

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原稿用紙に収まる怖気 まがお @MagaOo

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