相棒 (ほのぼの)

 何カ月ぶりだろう。


 青の、少々くたびれたスポーツシューズを靴箱から取り出す。


「よお。ごぶさたじゃねえか」


「彼」は拗ねていた。


「しょうがないじゃないの」


 わたしもつっけんどんに答える。


 しょうがないじゃない、今まではヒールの高いパンプスだったんだから。


 スポーツシューズに足を入れると、懐かしい感触がした。気持ちよく足に馴染む。


 本当は、こういう靴のほうが、好きだ。




「で? 今日はどこにお出かけだ?」


「デパート」


「デパート?」


「だって、もう夏だもん」




 もう「そんなガキくさいのはやめろよ」なんて言う奴はいなくなった。


 自分好みの、可愛くて、ピンクで、キラキラしたサンダルを買うんだ。だって、もう夏だもん。


 あいつがいなくなったからって、いかにも「一人です」みたいに、オシャレを諦めちゃうなんて、絶対したくない。


 ぺディキュアの色も、もっと明るい色に変えよう。ラメ入れて。




「おいおい、俺はお払い箱かよう」


 足もとで、彼が情けない声を出す。


「そんなわけないじゃない。あんたも気に入ってるんだから。サンダルと併用させていただきます」


「遠出するときはやっぱり俺だろ。前みたく、一人旅ん時はちゃんとつれてけよ」


「はいはい」


 スニーカーの紐を結びながら、適当に答える。一番のお気に入りの、青いスニーカー。


 たまにおせっかいな、わたしの相棒。




「あんなやつのことは、忘れろよ」


「うるさい」




 ドアを開ける。もう、いつものとおりのわたしだ。


 眩しい太陽の光に、目を細める。


 その光の中に、軽やかな足取りで、飛び出す。




 ありがとう、わたしの相棒。今までしまいっぱなしでごめん。


 わたしは心の中で、呟いた。

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