1000文字以下

ふさふさしっぽ

はーい (ホラー)

 今年四十歳になる従兄から聞いた話だ。


 彼は、中学生のころ、毎週金曜にテレビでやっている音楽番組を、ラジカセに録音していた。


 録音ボタンを押して、テレビから流れる歌手の歌声をケーブルを介さずに、カセットテープに録音するのだ。当然、歌声だけではなく、周囲の雑音も録音されてしまう。けれども当時彼は小遣いに余裕がなく、気に入った歌はそうやって入手するしかなかったのだ。


「それでは歌っていただきましょう。オレンジりんごで『Lemon色の空』」


 自分の部屋にテレビがないので、テレビがある親の部屋で行う。お気に入り歌手の曲がはじまると同時に、録音ボタンを押し、曲が終わるまで物音を立てないよう、ひたすらじっと待つ。しかし。


「ごはんだよ!」


「!」


 一階から、夕飯を告げる母親の声。思いっきり録音されてしまった。やり直しだ。この音楽番組はVHSに録画してあるから何度でもやり直せるけど、げんなりする。何でこのタイミングで。しかも今録音してるからって言ってあるのに。


「ごはんだって言ってんでしょ、ごはん!!」


「わかってるよ、今行くよ!」


 ふすまを開けて階下に怒鳴ると、従兄は録音を止めた。カセットテープを巻き戻さなければ。ちょっと巻き戻してどんな感じか聞いてみる。


 聞いた瞬間背筋が凍ったそうだ。


『ごはんだよ!』


『はーい』


『ごはんだって言ってんでしょ、ごはん!!』


『わかってるよ、今行くよ!』



 はーい、という無邪気な子供の声がはっきりと録音されていたのだ。


 もちろん、部屋には、自分一人。

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