僕と警備員さんの合言葉 (ホラー)

 中学二年の僕は塾から家に帰る途中近道をする。

 五階建ての、だいぶ古いビルの一階を通り抜けるんだ。特に通り抜け禁止とも書かれていない。

 一階にはテナント募集の空き店舗と、エレベーターが二基と警備員さんが一人いるだけ。正面から見て左側のエレベーターは壊れてる。「故障中」と大きく書きなぐられた紙がドアに貼ってある。


 最初は壊れたエレベーターに誤って乗らないよう、警備してるのかなあって、思ったけど。


 僕はその日も今日の夕飯何かなと思いながらビルに入った。ああ、今日はいるな、と思う。

 案の定、左側のエレベーターの前を通りすぎようとすると、エレベーターの中から、

「ここからだして」

 って小さな女の子の声がした。

 僕は気にしないで歩こうとする。すると目の前で右のエレベーターから人がたくさんぞろぞろ降りてきて、びくっとなる。四階のカラオケの客たちだ。彼らは僕とすれ違うように脇を通りすぎ、左のエレベーターを気にすることもなく、去っていく。彼らには、女の子の声、聞こえないみたい。たしかに僕は、霊感があるんじゃない? って、お祖母ちゃんに言われたことがあるけれど。

 僕は再び前を向く。


「ねえ、ここからだしてよ」


 幼い、小学生ぐらいの女の子の声。僕は左のエレベーターの脇に立つ、警備員さんを見る。警備員さんも僕をじっと見てた。じっと見ながら僕に伝えてる。


(ひみつだよ)


 僕と警備員さんの合言葉。

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