第27話 同級生と合コンⅡ

「待って!」


 後ろから大きな声で呼び止められた。振り返るとカナリアさんが駆け足でこちらに向かっていた。


「さっきはごめんね。二人とも別に悪気があったわけじゃないと思うの。でも気分悪くしちゃったよね?ごめん‥‥」


わざわざそんなことを言いに途中で抜け出したのか?息を切らしながら謝罪する彼女に俺は少し驚いた。


「いや、大丈夫。俺が大人げなかっただけだよ。二人だって別に深空先輩に特別敵意があったわけじゃないのは分かってたし。俺の方こそ空気壊して悪かったな」

「ううん、あれは完全に私たちが悪かったから、君は謝らないで!――でもやっぱり君は優しいよね」

「優しい?」


 早く帰りたかったが、思わぬ言葉を聞いて思わず聞き返してしまった。優しい?今の会話とこれまでの何処に優しさを感じたのだろうか?


「うん、優しいよ。だって君は二人の先輩の事悪く言わなかったでしょ?良い人だって。それに、怒りながらも二人のこと褒めてたよね?告白されたことありそうって」


そんなこと言ったっけ?うん、多分言ったか‥‥。正直あの時はついカッとなって思ったこと話しちゃったから何を言ったかよく思い出せない。


「別に優しいとかじゃないだろ?アンタらに気を使って言った訳じゃないしな。ただ、慕われてるから良い先輩なんだなとか、カナリアさん達は顔良いから告白されたことあるんだろうなとか俺が勝手に思っただけだし」

「‥‥‥」


 俺の弁明が終わると、カナリアさんは口を開けてぽかんとしていた。何か変なことを言ってしまっただろうかと不安になる。まあいいか。あんまり引き留めても、悪い気がするし。邪魔者はとっとと退散するとしよう。


「じゃあ、俺行くわ。あ、ありがとな。気を使ってくれて。それじゃ!」

「‥‥あ、ちょっと」


 行ってしまった‥‥。私は言いかけた言葉の続きを探したけれど出てくる前に彼はいなくなってしまった。

ていうか何なの、最後の!私はわざわざ二人って言ったのに、カナリアさん達って言い直して、しかも可愛いって!何、私のこと好きなの?私口説かれてたの!?

って本当は聞きたいけど、そんなの言えるわけないし‥‥。

君は否定したけど、でも私はやっぱり優しいと思うよ。だって普通は気を使って言うものだもん。先輩のことも、二人のことも。でも君は取り繕ったりしないから、心からそう思ってるんだってわかる。何も、気遣いだけが優しさじゃない。君のまっすぐな性格は、君が心から優しいんだなっていうのを教えてくれる。

 君は一年の頃から、変わらないね――。


 最後に何か言いかけていたような気がしたが、その続きは聞こえてこなかった。俺は、カナリアさんと別れて、家を目指した。大通りに面した道。すれ違う人々。走り去る車。そんな景色が流れていく。不思議と歩くリズムが早まっているのを感じた。 

 今はとにかく、早くルビアに会いたかった。

 気づけば大通りは終わり、あの始まりの路地裏付近に来ていた。帰りを急いでいた俺は少し汚い裏路地に足を踏み入れた。

 この街灯の下で俺は彼女に出会った。彼女の表情は恍惚としていて鮮烈な赤色に彩られて、どこか妖艶で、スポットライトの様な街灯に照らし出された彼女に、俺の心は一瞬で奪われてしまった。俺はそんなことを思いだしていた、呑気にも。

街灯は今も修理されておらず、この裏路地には光が失われていた。けど、不思議とこの道に恐怖を抱くことは無かった、無自覚にも。

 そう、俺は見落としていたのだ。心地の良い日常に甘えて、彼女との楽しい毎日に溶けてぼやけてしまった、彼女の心のサイン。それを見逃していたのだ。彼女の変化に気付いてあげれなかったのだ。

 


――その日、俺の部屋からルビアが居なくなっていた。

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