第14話 彼女と亀裂Ⅰ
いつだって、世界は自分の想像通りには動いてくれない。
人生の分岐は大抵、思いもよらぬところで、思いもよらぬ形でやってくるものである。それは、俺と彼女においても例外ではなかった。
「あの、ルビアさん」
「…何?」
「け、携帯使ってもいい?」
「いい、けど?」
キョトンとした顔を浮かべているあたり「今日も外出の相談」とかおもってたんだろうな。良かった、一発目に聞かなくて。
俺はルビアの前で、ルビアの監視がある時のみ携帯の使用が許されていた。
この一週間、携帯やパソコンなど外の情報を制限されていたため、俺は身の回りの情報をほとんど知らなかった。そろそろ、大学の出席や、バイトの欠勤など色々と心配なので確認しておきたかった。それに、考えなしにお願いしてもいつも通り頭ごなしに否定されていたに違いない。こういう小さなところから許可をもらっていくのが大切だ。俺は下品なメッセージがないことを心の底から祈ることにした。
思った通り、周りの人には心配や迷惑をかけたようだ。なんだか、申し訳ない気分になってくる。まあ、学校の方は友達がカバーしてくれていたようだ。今度改めてお礼言わなきゃな…。
ふと、俺の目にあるメッセージが止まった。
(この前の合コンの日程なんだけど――)
そういえばそんな約束してたっけ。でも、あれは恋を求めてたから行くって言ったけど、もう行く必要なくなったんだよなぁ。でも、迷惑かけた手前、断りづらい。
「困ったなぁ…」
「‥‥‥」
ルビアは何も言わずに携帯の画面を見つめていた。
まあ、どうするも何もルビアの許可がない限り、俺は部屋を出ることは出来ないんだけど。俺はため息をこぼしつつ、メッセージの確認を続ける。
「えっと、バイト先は――へ?」
(ご連絡いたします。この度あなたの解雇が正式に決定されました――)
解雇?え?クビ‥‥‥?
「グハッ!」
「え?ちょ、ちょっと!?」
マジか‥‥‥。怒られるとは思ってたけどまさかクビになるなんて。
一年で築き上げた俺のバイトでのポジションが水の泡に‥‥‥。
「ぶくぶくぶく――」
「泡!泡吹いてるから!?」
これから、どうしようか‥‥‥。
ルビアに宥められ、落ち着いたところで一度現実を見つめ直そう。
大学の方は、まあまだ大丈夫だった。だが、生活を続けていくための収入源をクビになってしまった。
まずいな。これは、より外出の緊急性が増してしまった。
もう一度頼んでみるか?一応、生活するためという大義名分はあるけど‥‥‥。
いや、生活できなくなったら捨てるだけだ。俺が外に行くデメリットと比べれば、そっちの方がまだマシであろう。
けど、せっかく手に入れた俺と彼女だけのこの空間を捨てるなんて絶対に御免だ。
ならどうする‥‥‥?やっぱ、頼んでみるしかないのか?
俺は、考えた末にもう一度頼むことにした。
「なあ――」「ね、ねえ――」
そのタイミングはまさに同時であった。
ルビアから俺に?何を言おうとしているんだ?
分からない。だからこそ、そのセリフを先に聞いておきたい。
「先、良いよ」
「ううん、そっちこそ先言ってよ」
まあそうなるか…。しょうがない。俺の方からいうことにしよう。
「えっと実はさ、その、やっぱり外に――」
ピンポーン――。
何だよ、このタイミングに。
「ごめん、ちょっと出てくるわ」
そう、運命は待ってはくれないものである。
いつかは、こんな日が来るだろうとは思ってはいた。それでも、今日このタイミングで来るとは思っていなかった。もっと、二人で話あって来るべきタイミングで、解決しなければいけない問題のはずだった。
「はーい」
「萌黄です、お兄さん」
「萌黄ちゃん!?」
なんでこのタイミングで?――てか、まずい!
萌黄(もえぎ)ちゃんとは大家の孫で高校二年生の女の子である。そんな彼女が来た理由なんて簡単に想像がつく。
俺はこの時、改めて理解した。
「ちょっと、どうしたの?」
「ま、待、隠れ――」
ガチャン――
鍵の開く音が部屋に響きわたった。
「やっぱり。お兄さん、私たちに内緒で人を住まわせてましたね」
「いや、こ、これは――」
「お話聞かせてもらいますよ」
この生活が、歪で脆く、簡単に壊れてしまうものだということを――。
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