第13話 彼女と洗濯

彼女が来て一週間、俺はとある問題に囚われていた。

先日、俺とルビアはお買い物デートに行った。

「で、デートじゃないから!」

うん、デートではないみたい。まあ、一緒に買い物に行って、彼女の身の回りの物を買い揃えた。

それから二日も経てば、洗濯物も溜まる。

そう、俺の悩み。それは、彼女の衣服の洗濯であった。

落ち着け、俺。いくら、家事全般を俺がしているとはいえ、越えてはいけない一線というものは存在するのでは?彼女だって、年齢だけ見れば高校生だ。きっと下着を異性に洗われるのは抵抗があるに違いない。

だが、直接聞くのは俺にとっても彼女にとっても気恥ずかしいものがある。

ここは、さりげなくルビアに聞いてみるか。

「あ、あ~そろそろ洗濯物が溜まってきたなあ。これは洗濯機を回さないといけないかなぁ‥‥‥チラッ」

どうだ!これなら、俺は独り言をつぶやいているだけで、ルビアに「洗濯」を意識させることができる!

洗濯にさえ気づけば、必然的に下着へとたどり着く!さあ、どうする?

「‥‥‥」

あれ?おかしい…。アクションを返すには十分な間を開けた。聞こえてないとも限らないし、どういう事だ?

俺は、不思議に思いルビアの方を伺った。

すると、ルビアは気にせずに、俺の部屋に置いてある漫画に目を落としていた。

何ィ、無反応だと!?

これは‥‥‥どういうことなんだ?——ま、まさか!

「——ゲートオープン、解放?」

なんてことだ…。ついに、俺は乙女の花園への入国許可証を入手したというのか。

俺は、彼女の洗濯ものが入ったかごへと手を伸ばした。

だがどうしたものか、どこからともなくわき出す罪悪感に苛まれて、俺の手はイマイチ伸び悩んでいた。

は、そうか!俺はまだ彼女の答えを聞いていない。だから、罪悪感で思う存分彼女のパンツをクンカクンカできないのか。

そんなことを考えてたら、背筋が凍るような冷たさを覚えたので一旦思考を放棄することにした。

もういっそ、本人に聞いた方が楽なんじゃないのか?

いや、待て?このまま聞いてNOが下されたら?あまつさえ引かれて嫌われて、刺されたりしたら?それだけはなんとか阻止しなくてはならない。

クッソ、俺はどうしたら良い?どうするのが正解なんだ!?

「ね、ねえ?さっきから静かすぎて逆に気になるんだけど…。アンタなんかしてんの?」

「どぎゃぎゃぎゃぎゃ!?」

「驚き過ぎでしょ。逆に怪しいんだけど‥‥‥」

びっくりしたぁ。って、ん?待てよ。改めて自分の今の状況を整理する。

俺は今、彼女のパンツを手にしていて、彼女のパンツを凝視しながら、ブツブツ言ってて、そして彼女に声を掛けられて、めちゃくちゃ動揺している、と。

‥‥‥。

「ゴッパァ!」

これはもう、言い逃れのしようがない、詰みだ。というか罪だな。

いや、まだだ!まだ、この状況を打開できる言葉が何かあるはずだ。

最初で最後の一言。

選択を誤れば、俺は間違いなく死ぬ。あ、いや洗濯じゃなくて。

(生への執着と不可避の死との境界でかつてなくめまぐるしく——)ってなんだこのナレーションは。

とにかく、この場を切り抜ける最善の言葉は——


「お…おパンツをお洗いしましょうか?」


よく言われる言葉で「恋は盲目」というものがある。恋は人を夢中にさせ、理性や常識を失わせるものだというたとえだ。

だからなのだろう、言葉を誤ってしまったのは。

パァン!と気持ちの良い音が洗面所に響きわたった。

「い、いいから!自分でやるから!」

「はい、すいませんでした」

ですよね?お年頃ですもんね。

結局、自分の物は自分で洗うことに落ち着いたのであった。

まあ、それにしても、前のルビアなら間違いなく、一目散に包丁など凶器を持ち出していたのに、平手打ちとは‥‥‥。

「成長、したのかな?」

俺は頬っぺたを手で押さえながら、ささやかな喜びを胸に浮かべた。

この調子で、一人で外出も許してもらえない物だろうか‥‥‥。

いや、ホントそろそろ出席数とか、バイトの無断欠勤とか色々と、なんていうかヤバいんだけど。

だが、さっき洗濯機の使い方を教えて必死になってるルビアを見ていたら、そんな焦りもどこかへ消えてしまった。

まあ、明日もう一回相談してみるか。

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