第10話 彼女と帰り道
午後六時。
――着いたよ。起きて。
そんな声を聴いてハッと目が覚めた。
気付けば、家の近く停留所に到着していた。空は、すっかり色味をなくして味気なさを感じさせた。
こんな時間に外でルビアと居ると、出会った日のことを想起させる。
俺は、どうやら眠ってしまっていたらしい。しかも、ルビアの肩を借りて。
何で……何で!そんな大事な事を忘れてしまったんだ!
口惜しさを噛み締めながら、俺はバスを降車した。
不思議と疲労感は残っておらず、すっきりとした寝起きだった。
そんな体を荷物の重みは容赦なく蝕んでいく。そんな俺を慮るかのように、彼女はそっと手を差し伸べた。
「――重そうだから、半分持つ」
ルビアからそんな風に言ってもらえるとは思っていなかった。なんなら、どや顔で「さっきとは立場が逆ね」なんて威張っているのを見て和むことを想定していた。
遠慮しようかとも思った。女の子にそんなことをさせるのも悪いからって。でも、俺はその手を借りることにした。そこには何か特別に理由があったわけでない。
別に家から遠いわけでも無かったし、その距離を持ち運べないほど疲れているわけではなかった。
でも、あえて理由をつけるとするなら、歩み寄ってくれたから、なのかもしれない。
「じゃあ、お願いしようか」
彼女の掌に、エコバッグの持ち手の半分をゆだねる。「おっも」と、思わず口から滑らしていたが離すことは無かった。
家までは、街灯三つ越した先を曲がったところにある。この道も二人で通るのはあの日以来である。そう考えれば、二人の間は買い物袋分くらいには縮まったのかもしれない。
気付けば家にたどり着いていた。扉の前で荷物を置き、カギを開ける。
「ただいま」
気付けばそう口に出していた。今までは言ったことなかったからか、急に恥ずかしさが込み上げてくる。
当然、隣からは何の返答も、続く言葉も聞こえてはこなかった。
けれど、俺は絶えず続けていこうと思った。いつか、彼女の口からその続きを聞ける日が来るまで。
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