第8話 彼女と買い物Ⅱ
なんかドッと疲れたけど、まだ一件目なんだよな‥‥‥。
「さて、次は下着と寝間着だな。これはさすがに自分で選んでね?」
「あ、当たり前じゃん!」
うん、さすがに女の子の反応で安心した。別に「どれが良い?」とか聞かれるのを期待していたわけではないよ?
次の買い物には、流石に同行するわけにもいかないので俺はルビアが選び終わるまで外で待機することにした。
それにしても、やはりルビアは、思慮分別がちゃんとしている。
あまり世間に出ていないから世間について知らないことが多いだけで、常識や礼儀などはしっかりしている。
多分、彼女は母親との仲は良さそうだったから、きっと、彼女の母が礼儀などを教えていたんだと思う。
そういえば、父親はどうなのだろうか。
名前を出さない理由があるか、それとも、そもそも存在していないか。
まあ、どちらにせよ彼女の言動は俺の殺人犯のイメージとは大きく逸脱している。
そんな彼女が何で殺人を――。俺にはどうしても、彼女が人を殺すような人間には思えなかった。ましてや、殺人をして笑みを浮かべるような人間には到底思えなかった。
私怨かそれとも――。
こうして、定期的に考えないと忘れてしまいそうになる。
それくらい、彼女との生活に俺は幸福感を抱いている。
今だって、あの日から目を逸らし続けている。その証拠に今までの思考の中から、ルビアが殺した人物を外してしまっている。
俺は、このことを忘れてはいけない。いつだって考え続けなければならない。この生活を選んだからには‥‥‥。
ルビアが俺の肩を叩いたことで、俺の意識は現実へと戻ってきた。
どうやら、ルビアが選び終わったようだ。
ふむ、どれどれ。この世には下着占いというものがあってね…。お兄さんが君の下着で占って進ぜようか‥‥‥。
「……何、しようとしてるの?」
ルビアが今までにないくらい冷ややかな声で俺にしか聞こえない声で囁いた。
「……は!俺は一体何をしようとしていたんだ!」
俺は買い物袋に手を突っ込むという、言い逃れのできない状況にわざとらしい演技で抵抗する。
「変な事したら……コロスよ?」
「……はい」
俺は弱々しい返事と共に、袋から手を引っ込めた。今までで一番殺意を感じました。
午後0時。
俺とルビアはフードコードで昼食をとることにした。
「何か食べたいものある?」
「うーん……」
迷っているって感じか。
「ハンバーガー食べるか?」
「はんばーがー?」
何故に疑問形?多分だけど知らないな、これ。
まあ、知らない物はこれから知っていけばいい。彼女には少なからず、そんな時間があってもいいだろう。
「ああ、ハンバーガー。美味しいぞ?」
「本当?」
俺たちの昼食のメニューはハンバーガーに決まった。店はもちろん誰もが知るあの店。
俺たちは、基本的なセットメニューを頼み、席に着いた。
「これは、どうやって食べるの?」
なるほど、そこからか‥‥‥。でも、初めて見る人からしたらそういう反応になるのだろうか?
俺は、ルビアに食べるところを実演する。
「こうして包装を半分くらい剥いたら、ほんなはんじに…かぶりつく」
「へ、へぇ……。ま、まあ知ってたけどね」
いや、それはさすがに無理があるだろ。何?ジョークなの?
ルビアは俺が披露したとおりにハンバーガーに食いついた。
ルビアは目を煌めかせ、即座に次を頬張っている。お気に召したようで何よりだ。
「ポテトもうまいぞ」
「ほんと?」
次から次へと口へポテトを運んでいく。
その姿を眺めているだけでお腹が膨れてくる。
結局、ルビアは俺の分までぺろりと平らげた。
そんなルビアを眺めていると、ルビアがごにょごにょと小さく何かを呟いた。
「え?なんて?」
「……ありがとう」
ルビアはこんなにもキレイなありがとうを言える。俺はそれだけで胸がいっぱいになった。
「また、来ような」
俺は、敢えて「また」という言葉を選んだ。
けれど、その返事が返ってくることは無かった。
それはきっと、二人とも分かっているから。
この時間が、決して永久ではないことを。
だから、俺はこの他愛ない時間を楽しむことにした。
この、歪で脆く、けれどもかけがえなく輝く、このつかの間の一瞬を――。
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