第7話 彼女と買い物Ⅰ

午前10時。目的地に到着した。

「うわあ……何ここ」

「ショッピングモールだよ。さ、早く行こうぜ。今日は忙しいからな」

「う、うん……」

ルビアの感動も冷めやらぬままに、俺とルビアはさっそく中へと入っていった。

「まずは……そうだな、服でも見に行くか」

正直、女子のファッションとかは全然分からないんだよなぁ、俺。

そもそも、ルビアに外出用の服がいるのか?今日みたいな時のために、一、二着ほどはあったほうが良いとは思うけど。

そういえば、ルビアと初めて会った日、彼女はきれいな服を身にまとっていた。

もしかしたら、衣服には気を使っているのかもしれない。

「ねえ、どのお店が良いの?」

うーん、困ったな。俺に聞かれてもいまいちわからん。

「その店とか良いんじゃないか?」

俺は適当に近くの店を指さした。

「好きな服選んでいいから。決まったら呼んでくれ」

「……ねえ」

ルビアが俺の袖をつまんで引っ張った。

「ばびゅーん」

「な、何!?」

彼女の可愛い仕草がクリティカルヒットして、危うく俺は卒倒しかけた。

あぶねえ。ナイフとかよりよっぽど殺傷力高ぇじゃねえか。

「どうしたの?急に吹っ飛んだりして」

「な、なんでぼないよ。どうじだ?」

「いや、思いっきり鼻血出てるけど‥‥‥。その、どれが良いのか分からなくて……」

「今着てるような服を選べばいいんじゃないのか?良く似合ってるし」

俺は鼻血を拭きながら彼女の質問に答える。

「これは……お母さんが選んでくれた服だから……」

彼女の口から、「お母さん」という言葉が出るのは初めてだった。

でも、そうか。彼女の可愛い服のセンスは彼女の母親のものだったか。

うん、どうやら「お義母さん」とは気が合いそうだな…。

いや、もっと違う出会いで、彼女の母親と出会って、話をしてみたかった。今はもう叶わない望みだけど――。

「そっか。でも、俺も詳しくないからなー。あ」

しまった。そう気づいたときにはもう手遅れだった。

そう、服屋の前でこのセリフだけは禁句だった。何故なら‥‥‥

「お客様!何かお困りでしょうか?」

ほら。もう詰め方がスッゴイ。元皮付きと薬物中毒者くらいグイグイ詰めてくる。

ルビアは俺の影に即座に隠れた。

なるほど、俺以外の人間には抵抗があるようだ。なんか、俺だけ特別って感じがして、グッとくるものがある。

けれど、ルビアには悪いが、今はこの女性店員のアドバイスを受けることにしよう。

彼女が見立ててくれれば間違いはなさそうだから。

「あの、すみません。彼女に服を見立ててほしくて……。どうもファッションに疎くて」

「ちょ、ちょっと!」

「可愛らしい彼女さんですね!私も腕が鳴ります。では、こちらにいらしてください」

すまないな。でも、君の可愛い服装が見てみたい自分が勝ってしまった。

ルビアが試着室に連行されてから五分程経ったくらいで、選び終わったようだ。

「どうでしょうか?」

自信満々な店員の声とともに、ルビアの姿は露わとなった。

結果として、店員に任せて正解だったと俺は思った。

緩めの薄ピンク色のニットは彼女の可愛らしさを引き立たせ、ハイウエストで膝下丈の黒いスカートは、変に媚びずに彼女のスタイルの良さを感じさせた。皮のブーツは可愛らしさの中に仄見える、大人っぽさを演出している。全体的に落ち着いた色合いに仕上げることで、彼女の美しい髪色をより際立たせる、そんなコーディネートに仕上がっていた。

「……うん。なんていうか、凄く似合ってると思います」

こうして改めて見ると、ルビアはとても美人だということに気付かされる。

俺はそんな彼女を見て、少し言葉を失ってしまった。

「良かったです。彼氏さんも見惚れていますしね」

「ち、ちが‥‥‥」

「は!」

どうやら店員に茶化されるまで、俺は本当に彼女に見惚れていたらしい。

「どうしますか?こちらのコーディネートでよろしいでしょうか?」

正直、他の服装も見てみたい気はするが、俺はルビアの方を伺う。

「うん、これにしようかな」

彼女が気に入ったようで何よりだ。

「お気に召したようで何よりです」

「じゃあ、これにします。このまま着ていきたいんですけど、大丈夫ですか?」

「はい、かしこまりました。それでは、タグを取ってからお会計させていただきますね」

服の用意ができたところで、俺はレジへと向かった。

「お会計が、合計で4万8000円になります」

あっれれぇ~?おかしいぞぉ?

俺が買ったのは洋服であって、プレステ5ではなかったはずなんだけど。

「げ、現金で、お願いします‥‥‥」

服ってこんなにするのか…。

足りなくなるとは思っていたけど、まさか、今日引き下ろしてきたお金のほとんどを最初の買い物に使うとは思ってなかった。

「ありがとうございました」

手痛い出費だったが、ルビアの喜ぶ顔と可愛い姿が見れたから良しとしようか。

俺は、自分にそう言い聞かせることにして洋服屋を後にした。

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