第33話 ま、この手の小説やマンガではあり得るわね。
芝生をゆっくりと踏みしめて姿を現したのは・・・エレノアでもエドワードでもなかったのよ!
金髪碧眼の女性が、キョロキョロと辺りを見渡しながら足を進めているわ。そして、立ち止まったの。イベントの時にエレノアが立ち止まる所と同じ所で・・・。
ちょっと待って、そこはエドワードとヒロインのイベント発生場所よ!!早く移動してほしいわ!
あら?う~ん、どこかで見たことがあるような・・・。
あっ!自称王族の転生者らしき女子生徒だわ!!
なんていうことなの。仮に転生者として、この乙女ゲーム『エレノア~聖なる導きを貴方と共に~』を知っているのならば、そこで立ち止まらないのが常識だわ!
え、いや、まさか、ヒロインに成り代わろうとしているんじゃ・・・。
いやいやいや、有り得ないわ。彼女は、ヒロインというよりは、悪役令嬢テイストが強めだもの!もう、私の想像力って逞しいわ~。
というか、もういい加減、早く立ち去ってくれないかしら。
「チッ!・・・なんで毎日来てるのに、何も起こらないのよ?!」
あら~、舌打ちだわ。言葉使いも乱暴で、自称王族が聞いて呆れるわね。
え?ちょっと待って、何も起こらないって言ってたわよね。あーもう!イベントが起こるの分かっているんじゃないの!!分かっていてそこで立ち止まるの?あり得ないわ!
あら?でも彼女、毎日来てるって言ったわよね?このイベントは、テスト前の放課後だけのはずよ。だから、毎日来ても何も起こらないはずなのに、この人大丈夫かしら?『エレセイ』をちゃんと真面目にやったことあるのかしら?まさか誰かにやらせて、スチールやイベントだけを見てたとかはないでしょうね。
「ここで、エドワードとのイベント発生するはずなのに!なんなのよ!!」
彼女は、ブツブツ文句を言いながら立ち去って言ったわ。転生者確実ね。
全く、『エレセイ』ファンの風上にも置けないわね。
でも、良かったわ~。これで心置きなくイベント発生を見守れるわ。
「イベント?・・・」
密かに喜んでいた私の頭上から、戸惑ったようなそんな声が降ってきたわ。
ま、この状況で『イベント』なんて、この世界の人には意味不明な言葉よね。
「・・・これは乙女ゲームか?」
更に、次に降ってきた彼の言葉を聞いて、思わず固まってしまったわ。とても小さい声で、無意識に出た言葉みたいだけど、私にはハッキリと聞こえたの。
もしかして、彼は転生者かしら?
その真相を確かめるため、彼の様子伺おうと恐る恐る振り返ったわ。けど、彼は直ぐに私のその様子に気付いたの。
「ん?どうしたのかな?」
首を傾げるアシェルは、にこやかにポーカーフェイスを決めているけど、私には誤魔化されないわ。
「乙女ゲーム・・・」
って言ったわよね、彼は。
「ん?何のことかな」
先ほど彼が言った言葉の一部を発すると、ポーカーフェイスはそのままだけど、彼の瞳は揺れ始めたわ。
うん、間違いないわ!彼は・・・。
「・・・転生者ですの?」
次の私の言葉に、ピクッとアシェルが反応したわ。
そして、フーッと息を吐いて、ベンチの背もたれに体を預けたの。
「そうか、じゃ君も転生者なんだね?」
「ま、そうですわ。先程の彼女と、私以外にもいらっしゃったのですね」
驚きだわ。私の他、先程の女性以外はいないと思ってたもの。それもこの場所で3人が揃なんて、不思議なこともあるのね。一人は認識していないでしょうけども。
でもそういえば、この手の小説やマンガでは転生者が複数居たわね。悪役令嬢とか、ヒロインとか、攻略対象者とかね。
「ま、薄々そうじゃないかと思っていたよ」
「え、何故ですの?」
彼と会ったのは、図書室で2回ほどよね。今日で3回目のはずよ。いつ目を付けられていたのかしら。私、何か変なことしたかしら?
「それはね。ここ十数年で、この国での魔法の技術が、下位クラスから上位クラスに変わったことかな」
「下位?そうでしたの?」
幼い頃から私の近くにナッターズ侯爵がいたから、魔法の技術が低いとは思わなかったわ。それに『エレセイ』では、魔法技術は低くなかったような気がしたのだけれども・・・。
「そう。下位クラスの中くらいである西側の隣国より、かなり下をいく低いものだったんだよ。それなのに、十年ほど前にはそれが反転した。それだけではなく、今では大幅に上回り上位クラスとなっている。更に言うと、周辺国にある数少ない上位クラスの中でも、2番目と差を引き離しこの国はトップに君臨している」
え、この国がトップなの?他の国のこと、行ったこともないから分からなかったわ。
「その原因が、君だということは分かってからね」
「私ですの?」
この国の魔法の技術が上位クラスになったのは、私が原因とはどういうことかしら?
「そうだね」
「私、何もしていないですわ」
「沢山の人たちが多くの属性魔法を使えるようになったのは、君が発見したということは調べがついているんだ」
属性魔法が使えるようになるのって、その属性の魔力を体に流すことよね。でも、そんな大したことしてないわよ。数に限りがある魔道具を使うには、時間が掛かるなと思っただけだもの。
魔道具を使うことによって、一時的に属性魔法の魔力が体に流れ、属性魔法を習得するのよね。それは時間が掛かるから、体に直接属性魔法の魔力を流し続けた方が効率が良いということになったのよね。でも、それは偶々だもの。ナッターズ侯爵がそれに気付いて、意欲的に動いたことによる結果だと思うわ。
「それのお陰で、留学しなくて良くなって助かったよ」
「まぁ、留学する予定でしたの?」
「産まれた時から転生したのだということは、自覚していたからね。本が読めるようになって、魔法関連の本を読んだ時は絶望したよ。レベルが低すぎて・・・」
うわっ死んだ目に変わったわ!
「だから、10才になったら、上位クラスの国に留学しようとしていたんだよ」
良かったわ。死んだ目が戻ったわ。
でも、そんな幼い年で留学しようとしていたなんて。
「向上心が高いですわね」
「向上心というか、魔法のある世界に産まれてきたからには使いこなしたいという、男のロマンかな」
ロマンですか・・・。
生暖かい目で見てしまうわ。
でも、留学というと・・・。
確か、周辺国に留学して戻ってきた、隠れ攻略対象者が居たような気がするわ。私は攻略しなかったけど、『エレセイ』を作ったエンジニアがそう言っていたと、何かに書かれてたのを見た記憶があるもの。
まさか、彼が隠れ攻略対象者?いや、まさかよね。だって、その人って・・・。
教室の隅にいるような乙女ゲームのモブに転生しちゃったけど、毎日が最高ですわっ! taka./// @takako-huku-
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