第32話 そこに見逃せないモノがあるわ!

ん~。理解に苦しむわ~。

どうして私、今このような状況にあるのかしら?


数日前、ミラに私の癒し3体が連れさられてしまい、その代わりを求めたのは、乙女ゲーム『エレセイ』のイベントのスチルだったの。

そして!ここ、中庭でそのイベントの一つが起こるのよ!!


確かテスト前の放課後に、エレノアはこの場所でエドワードと言い合うのよね。


何やら思い詰めたエドワードに気付いたエレノアが、中庭まで追いかけて声をかけるのだけど、彼はテストの順位が万年3位で、同じく万年2位のエレノアに八つ当たりするのよ~。


「エドワード様!どうなされたのですか?」


「あなたは私のことを馬鹿にしているのだろう!」


「え?・・・なんのことですか?」


「どんなに勉強をしても、あなたに勝てない私を!」


「そんなこと思っていません!酷いです!!」


「殿下の側近として、テストの順位が殿下の次点の2位でなければ・・・」


「殿下の側近って、テストの順位が2位じゃないとなれないんですか?」


「そいういうことではない。殿下を支えるために・・・」


「それって可笑しいですよね?」


「何が可笑しいというのだ?」


「殿下のためじゃくて、テストの順位にために動力を使っているように思います。殿下はそれを求めているんですか?そのせいで、自分のために苦しんでいると分かったら、殿下はどう思いますか?私だったら、悲しいです!」


「殿下がどう思うか・・・」


「勉強のために殿下の側を離れるより、側に居て支えになってくれる方が嬉しいと思いますよ」


「エレノア・・・」


そして、二人は見つめ合うの・・・キャー!!


でも、そのイベントがいつ起こるのか明確じゃないのよね・・・。

だから、テスト前の一週間を、放課後に張り込むことにしたわ。そのため、私は中庭にあるベンチで待機していたの。


・・・それなのに何故、私は今、ここで、このアシェルの膝の上に座り、一緒に本を読んでいるのかしら?


ちょっと待って、今日の行動を巻き戻すわ。


今日はホームルームが終わって直ぐに、この中庭に来たのよ。ジュリアンナを振り切って来るのは大変だったわ。


事前に調べていたこのベンチは、木々が邪魔してちょうど死角になるのよ。本当に理想の場所なの!学園の建物からも中庭からもベンチ周辺見えないし、でもベンチこちらからは木々の間からそれが見えるのよね。


そんな穴場に彼はやって来たわ。私がちょこんと、ベンチに座ったタイミングでよ。


まさか、この場所を知っている人が居たなんて!!


彼と目が合った瞬間、固まってしまったわ。


そして、私がここにいる目的イベントを知らない彼は、にこやかに挨拶をしてくれたの。

・・・けど、例の目的イベントのことは隠したいし、そのために彼には早くこの場から立ち去って欲しいし、とテンパった私は上手く言い訳がつかずあわあわと、更に彼の目も見れずキョロキョロとしてしまい、何も悪いことなんてしていないのに、思わず挙動不審になってしまったわ。


本当にテンパると、咄嗟に出てこないものね、言い訳なんて。


その、さ迷った目が止めたのは、彼が手にしている本なの。それ、私が探していた特級魔法関連の本だったのよ~。

魔法には下級、中級、上級、特級とあるのだけど、特級魔法ってどんなのがあるのか知りたかったのよね。基本、自分で作っちゃうか、ナッターズ侯爵に教わるか、だったのだもの。特級魔法の本もとても貴重らしくて、なかなか巡り会えなかったのよ。


だから、どう言い訳どうしようなんてスッパーンと忘れて、読み終わったら貸してもらおうと思って声をかけてしまったの。

早く立ち去って欲しかったのに、ちょっと私、どうかしてたわ。


それなのに、それなのによ。それが、どう変換されて、ここで一緒に読むことになる訳なのよ~。

でも、一歩譲って、ここで一緒に読むとしてもよ。膝の上に乗らなくても、一緒に読めるわよね。何故に膝の上ここなのかしら。

これじゃ、父親に絵本を読んでもらっている娘の図だわ!!


「へ~、この作者は面白いね」


面白い?

その彼の言葉に興味を引かれて、本を目でなぞって読んでいくわ。


魔法の名前に特徴、発動の仕方でしょ・・・ん?『上手く応用しよう!』?


『先ずは、混ぜたい食材を包むように超強化シールドを作ろう!形は丸みを帯びた円柱形か、球体が好ましい。普通のシールドや強化シールドでは駄目だ。シールドが直ぐに壊れて、食材が散乱してしまうからな。ダイヤモンドくらいの固さをイメージすることだ。そして、超強化シールドの中に、小さなトルネードを作れば良く混ざるぞ。更に、トルネードをエアカッターに変えて回転させれば、食材が細かく切れるぞ。ポイントは超強化シールドを大きめに作ることだ!』


ナニコレ・・・。


本当にコレ、特級魔法の本なのかしら?

アシェルが私に見やすくなるように開いて持ってくれているけど、少し失礼して本を表紙を確認してみるわ。

うん、そうね。『特級魔法』とでかでかと書かれている下に、『応用編!これで君も料理名人だ!!』と小さく書かれてあったわ・・・何故?

まー、なんというか、私が見たかった特級魔法の本ではないわね。でも、見たくないってことではないのよ。アシェルが言うように、ある意味面白そうだわ。


先ほど開いていたページに然り気無く戻して、また本を読み始めるわ。


ちょっと思っちゃったのよね。これでメレンゲとか出来るんじゃないかしらって・・・。


「クックックックックッ・・・」


頭上から笑い声が降ってくるけど無視だわ。何が可笑しいのかしら?変な人だわ。


「で、何が気になったの?」


またまた頭上から降ってきた声は柔らかい感じで、私を幼い子と勘違いしているのかしら。


「何故、料理なのかしらと思ったのですわ」


「あぁ。確か、建築とか薬師とかも色々並んであったね」


「え?特級魔法の応用編がですの?」


「そうだよ」


「ま、時短になると思いますけど、需要がありますでしょうか?この本に」


「どうだろう。特級魔法を使える人は、前に比べれば増えてきただろうから、多少は需要があるのではないかな」


「魔力が多ければ良いでしょうけど、特級魔法を使い続けて1日もつのかしら」


「数年前に比べれば、この国の人たちは多くなったんじゃないかな」


「そうですわね。後はコントロール問題かしら・・・」


そんな話していると、誰かが近付いて来る足音が聞こえてきたわ。


きゃー!エドワードかしら?でも、足音が軽いからエレノアかしら?

早速、イベントが始まるのかしら!?

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