第30話 え?私付きの侍女よね?

瞬間移動で自宅の庭に戻って来たわ。もう、学習したのよ。前回は自分の部屋に直接瞬間移動したから、ミラに見つかり大変な目にあったけど、今回は堂々と正面から家に入るわ。それなら、怒られないはずだわ。

精霊の3人は、小鳥の姿に戻ってもらっているの。今は、私の服の中に隠れてもらっているわ。


「3人とも、大人しくいてくれるとありがたいのだけど」


『おう!大丈夫だ。普通の人間にはオレたちは見えないからな。だから、早く行こうぜー』


『うん、静かしてる』


『うん、してる。だから、はやくっ!はやくっ!』


服の中にいる精霊たちがいる辺りを抑えながら、正面の玄関へ流れるように移動し、扉を開けて中に入ると、また流れるように自分の部屋へ向かい階段を上って行くわ。


ふふふっ、完璧ね。


サッと部屋に入り、扉を閉めると精霊たちを服の中から解放したわ。


『あー、苦しかったな。狭いし、暗いしな!』


『俺は、落ち着く。みんなと、くっついていて嬉しい』


『うん。ぼくも、たのしかった!また、やりたい!』


『いや、オレもそれは嬉しいけどよ~』


『照れてるな』


『いゆ、てれてる~』


「仲が良くて、良いわね」


ソファーの上で、そんなやり取りをしている彼らを見ているだけで、ほのぼのしちゃうわ。


『その中に、おまえも入っているからな!』


『うん、入ってる』


『そうだよ、なかまだもん』


「ありがとうっ」


もう、可愛すぎる!そんなこと言ってくれるなんて、嬉しいわ~。もう!3人纏めて、ぐりぐりしちゃうわ~。


『おい、止めろよ!首がもげるだろっ』


え、首?あるようには見えないわ・・・。

彼らを撫でていると、羽をバタつかせて抗議されたわ。


『撫でられるのは嬉しいけど、転がりそう』


うん、まん丸だものね。


『たのしい~もっと!もっと、やって』


え、遊びだと思っているの・・・?


『・・・そう言えばオレたち、おまえの名前聞いてないな』


『うん、聞かなかった』


『にんげんさんの、なまえおしえて?』


精霊3人が同時に首を傾げるのよ!可愛い~。ごめんなさい、契約したのに自己紹介してなかったわ。


「アリアルーナよ。みんなは、家族や友人はルーナと呼ぶわ。だから、ルーナって呼んでほしいわ」


『ルーナだな。しょうがないから呼んでやるよ』


『うん、ルーナ呼ぶ』


『るーな!いいなまえだね~』


コンコン。


あら、ミラかしら?・・・ちょっと待って、この状況ヤバイわ!説明を求められたら、どうしましょう!言い訳なんて思い付かないし、とっても困るわっ!!


「3人とも早く隠れるのよ!」


『なんでだ?おまえの部屋だろ?』


『何故、隠れる?』


『あ!かくれんぼ?』


声のボリュームを下げて3人を急かしたけど、彼らは空気が読めないマイペースさんのようだわ・・・。


「シーッ!」


彼らを一人ずつ無造作に掴んで、クローゼットに投げ入れたわ。


「喋っちゃダメよ。静かにしていてね」


『心配ないぞ。一般人はオレらのことが見えないし、聞こえないからな』


『でも、ルーナ見えてた』


『こえもきこえてたよね~』


『あっ』


『そうそう、ルーナみたいな人間いないと思う』


『うん、るーなとくべつ!』


『な、なるべく大人しくしてるからな』


『うん、ルーナに迷惑かけたくない』


『がんばって、おとなしくしてるね~』


「ありがとう~」


そんなことを言ってくれる3人を、まとめてギュッと抱き締めたわ。


ゴンゴンゴン!


何このノック・・・重いわ。金属でノックしているみたいの重さだわ。

それに、何故か寒くもないのにブルッとするのよ。


「待っていてね」


抱き締めていた3人をクローゼットの奥に隠して、静かに扉を閉めたの。

そして、サッサッサッとクローゼットから離れて、何事もないようにソファーに座ったわ。


「はい、何かしら?」


心臓がドッキドッキしているけど、それを表に出さないように、鳴り続いているノックに澄まして返事をしたわ。


「失礼します」


そう言って勢い良く素早く入ってきたのは、もちろんミラだったわ。


え?ちょっと待って、何故迷うことなくそっちに行くのよ!


そして、ミラは部屋に入ってきたままのスピードで迷うことなくクローゼットまで行くと、バッと扉を開けたのよ。止める間も、声をかける間もなく侍女にしては尋常じゃない速さなのよ。


「ミ、ミラ?どうしたのかしら?急にクローゼットを開けるなんて」


恐る恐る彼女に声をかけてみたわ。

大丈夫よ、妖精や精霊は普通の人には見えないって、彼らが言っているもの。ミラって普通の人かしら?


「暫し、お待ち下さい」


クローゼットの中にミラが入ると、突如中が騒がしくなったわ。嫌な予感がするわ・・・。


『止めろー!離せー!オレたちをどうする気だ!!』


『離してほしい』


『なになに?あたらしいあそび?』


暫くして、クローゼットの中から現れたのは、3人を無造作に掴んだミラだったの。


やっぱり、ミラは普通の人じゃなかったわ!!


彼女は窓の前まで行くと、器用に窓を開けたわ。そして、何を思ったのか彼らを外に放り投げたのよ。


『『『うわ~』』』


「キャー!!ミラ、止めて!」


慌てて、彼らを助けようと窓の側に駆け寄ると、小鳥の姿をした精霊たちはパタパタと戻ってきたわ。

良かったと思ったのも束の間、またミラが彼らを掴んで外に投げ捨てたのよ。


『なんで投げるんだよ!止めろよ!』


『疲れる。止めてほしい』


『たのしいね~。もっとやろう!』


一人だけ楽しんでいるわ・・・。


ジャグリングのように繰り返されること数分、ミラを説得してやっと止めてくれたわ。舌打ちされたけれどもね・・・私付きの侍女なのによ。


「では、説明をしていただきましょう」


丁寧に言われているのだけど、そう感じさせないわ。

窓を閉めて、ソファーに座らせられた私の隣には、疲れはてた二人と元気に喜んでいる一人の精霊、脇には仁王立ちをしているミラがいるわ。

肩身が狭いわ・・・あなた、私付きの侍女よね?


「成り行きで、契約しちゃったのよ・・・」


俯いたまま、顔が上げられないわ。


はぁ~っとミラがため息を吐いたの。彼女、一応私付きの侍女のはずだけど・・・。


「また、好奇心で物事を決断したのでしょうか?」


ドキッ!


「可愛いとか、賑やかになるとか、ワクワクするとか、考えなく契約したのではないですか?」


ドキッ!ドキッ!


なんとか、話を逸らさないとならないわ。


「そ、それより、ミラは精霊が何故見えるのかしら?」


「話を逸らそうとするのが、バレバレですがいいでしょう」


何か上から目線だわ。


「・・・はい、申し訳ないわ」


しゅんと、反省だわ。


「何故、見えるのかでしたよね。私も精霊ですので、見えて当然です」


「え?」


思わず顔を上げて、ミラを見てしまったわ。

然り気無く、とんでもないことが暴露されたような気がするけど、聞き間違いをしたのかしら・・・。


「精霊になったばかりの、ちんけな3玉と一緒にしてほしくはないのですが、私は上級精霊です」


「えーーー!!」

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