第26話 私の周りで増えていくわ・・・

荷物を脇に抱えるみたいに連れてこられた魔法研究所で、私とエレノアがソファーに座ってぷんぷんと怒っているわ。その向かい側でフィンレーは、ふんぞり返って座っているわ。

部屋には、他のみんなはまだ来ていなくて、居たのがエレノア一人だけだったのよ。誰も居なかったら、フィンレーを私一人でどうしようかと思っていたのよね。


「フィン。あなた、本当に分かってるの?」


「何が?」


「レディを脇に抱えるなんて、男のやることじゃないわ!」


うんうん、エレノア良く言ってくれたわ!その言葉に力強く頷いてみせたわ。

魔法研究所の部屋に入って直ぐ、フィンレーに抱えられていた私に気付いたエレノアが、慌てて下ろしてくれたのよ。助かったわ。


「レディ?どこにいるんだ、そんな奴。お子様なら目の前に居るみたいだけどな」


また、お子様って言ったわ!もう、天の邪鬼なのね。


「なんで、そんなこと言うの?昔はそんな子じゃなかったのに」


「はぁ?子って、俺はお前より年上だぞ」


「今もひねくれて、子供みたいじゃない」


そんな、親子みたいな二人のやり取りを見ていると、なんか怒っているのが馬鹿らしくなってくるわ。彼らは、この状態から恋愛に発展するのかしら?個人的な感想として、難しいわね・・・。


「二人とも、仲が良いわね」


「「どこが!?」」


「え?そこがよ。今、言葉が揃ったじゃない」


「もう、ルーナのために怒っていたのに」


「ありがとう、嬉しいわ!」


満面の笑みを浮かべてお礼を言うと、エレノアが「可愛い」と言って、ぎゅっと抱き締めてきたわ。私のこと子供扱いしてないかしら?


「それより、俺が強くなるって言ってたよな?」


「え?言ったわよ」


抱き締められながらそう言ったら、フィンレーがベリッと私からエレノアを引き離したわ。


「それを詳しく話せ」


「フィン!人に物を頼む態度じゃないわ」


フィンレーが命令調で言うものだから、それを私が怒る前にエレノアが憤慨したのよ。

エレノア、ありがたいけど、私の変わりに怒らなくても良いのよ。私の感情の行き場が無くなるわ・・・。


「エレナー、落ち着いて。それと、フィンレーさん。そんな態度では、教えたくても教えたくなくなるわ」


「チッ」


もう、フィンレーって、こんな感じじゃなかったのに~。わざらしく大きく舌打ちをするなんて、どこでひねくれてしまったのか、悲しいわ・・・。


「私は、良いのよ。教えなくても痛くも痒くもないのだから」


でも、屈しないわ。強気で行くわよ!


「分かった、俺も強くなりたいからな・・・だから頼む、強くなる方法を教えてくれ」


先ほどとは違い、真剣な瞳で私を見つめるわ。うん、『エレセイ』より男臭さくなったフィンレーも格好いいわね。


「良いわよ」


「ちょっと待て、軽いな。俺、かなりの覚悟で言ったんだぞ」


「え~。酷いわ、軽くないわよ」


その覚悟が伝わったから、OK出したのよ。もう!軽く言ってないわよ。


「それに、強くなるやり方を隠しているわけではないもの。誰にでも教えるわよ」


「そ、そっか?じゃ、頼む」


何か、あっさり教えると言われて、戸惑っている感じだわ。え~。私、そんな心狭くないわよ~。


「そう、分かったわ。初めての試みだから、どうなるか分からないけど大丈夫?」


そう、すまして言ったわ。


「あぁ、大丈夫だ。大丈夫だけれども・・・」


何か、フィンレーが眉を下げてこちらを残念そうに見るわ。どうしたのかしら?そして、エレノアは微笑ましそうに見てくるし、何か問題でもあるのかしら?


「こいつが大丈夫か?貴族令嬢だよな?一応。考えていることが顔に出過ぎで、分かりやすすぎるぞ」


え?ちょっと、失礼じゃない?なんで、エレノアにそんなこと聞くのよ。私は正真正銘の貴族令嬢よ、一応ではないわ。それに、そんなこと臆面にも出してないわよ。


「そこが可愛いんじゃない!」


エレノアもそう思っていたの?悲しいわ・・・。


「教えないわよ・・・」


「悪い、悪い」


拗ねてボソッと呟くと、絶対そう思っていない悪びれない感じで、謝ってくるのよ。失礼ね。


「もう!始めるわよ。エレナーも手伝ってね」


「私も?良いわよ。何をすれば良いの?」


キョトンとするエレノアも可愛いわ~。さっきのことも許しちゃうわ。


「一緒に魔力を流してくれれば良いわ」


「分かったわ」


エレノアがコクリと頷いてくれたわ。


「フィンレーさんは、まだ持ってない属性あるかしら?」


「基本形では聖だけ、派生は雷と氷が持ってないな。公表されている他に属性魔法があるなら、分からないがな」


こっちを伺う感じで言わなくても、その他の属性魔法は今のところ確認されてないわよ。


「そうなのね。今のところ他の属性は、確認されてないわ。では、やっていきましょう。先ず聖属性の魔力をエレナーと二人で流していくわ」


「二人?」


フィンレーが意外そうだわ。そうよね、今まで魔力を流す人は、一人だったのだから。


「そうよ」


「なんで、二人なの?」


エレノアがグイッと顔を近付けてくるわ。

彼女、まだ子ナッターズ侯爵の一人ではなかったはずよね・・・。


「迅速に効率良く?」


ちょっと引きながら、そう答えたわ。


「何故、疑問形なんだ?」


「だって、確実ではないもの。それでも、良いのでしょ?」


まだ誰かに試したことないから、本当に出来るか確定ではないのよ。だから、疑問形で答えちゃうのよね。


「あぁ、それでも良い」


潔い、良い覚悟だわ。


「では、エレナー。私はこちらから流すから、エレナーはそちらから流してほしいわ」


フィンレーの右側に移動して、二の腕に手を置いたわ。


「分かったわ」


エレノアが左側に移動して、二の腕に手を置くわ。


「同時に魔力を流すわよ。"せーの"の"の"で、お願いね」


「了解よ!」


エレノアが力強く頷くわ。


「せーの!」


そして、聖属性の魔力を流して行くの。どんどん、流して行くわ。もっともっと、流して行くわ。

・・・魔力を流して、かれこれ1時間くらい経ったと思うのよね。年齢が20才越えているのだから、もう少しかかりそうかしら?


「なんか、聖属性の魔法が出来そうな感じがする」


あら、以外と早かったわ。


「え、もう?」


「ふふふ~。やはり、上手くいったわね」


昔、ナッターズ侯爵が私たちだけに、最初魔法を教えてくれていた時、それぞれの属性の魔道具を使うとその属性魔法を覚えやすいからと言って魔道具を使わせていたわ。それは、毎日数回使わせて体に覚えさせ、属性魔法を身に付けていくからだったのよね。思い込みによるものだとしたら、その属性魔法を直接体に流し込んだ方が良いんじゃないかしら、と思って最初ジュリアンナに魔法を教える時に実行したわ。そうしたら、魔力を流す方が早く覚えたのよ。で、思ったの。年齢によるけど、1回魔道具を使うのに数秒を1日に数回を何ヵ月、若しくは約1年もかけてやるのを、1ヶ所から魔力を流しっぱなしにして数日で結果が出るわけでしょ、それを数ヶ所からやった場合はどうなるのかしら?と思ったのよね。流石、私ね!


「では、次ね」


「ちょっと、待て」


「ルーナ。ちょっと、待ってよ」


次の属性をやろうとしたら、二人して止めるのよ。属性魔法を今日中に終わらせて、後はスキル取得の方に行きたいのだけど・・・。


「21才の俺がこんな短時間で、属性魔法を取得するなっておかしい。どういうことだ?」


「ルーナ、これはどういうこと?ちょっと、詳しく教えてほしいわ」


え?え?二人の圧が凄いわ!そんな、変なことをしていないわよ。


あぁ~。何故、私の周りで子ナッターズ侯爵が増えていくのかしら・・・。

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