第23話 ズレてないわよね?・・・ねっ?

帰る準備をしていたら、ジュリアンナにお願いされて、学園の魔法研究所にやって来たわ。寄らずに帰りたかったのに、彼女に可愛くきゅるるんとお願いさせたら、誰も断れないと思うのよ。


「これだけ?人数が少ないわね・・・」


「そうですわね・・・」


魔法研究所の中を見渡たすと、居るのはカーティスとデュランのみ、その二人は各々散らばって、何かやっているのだけど・・・研究所と言う割には人が少なすぎるのよね。


「ここに所属している生徒って、私たちだけなのかしら?」


「あー、そうだね」


そう抑揚のない感じで言いながら、カーティスは目逸らしてこちらを見ようとしないわ。どうしたのかしら?そのことに触れられたくないというよりは、何か緊張している感じだわ。私とジュリアンナに、その生徒のことで何か説明したいのかしら。

見たところ他の生徒の姿はないのよ、だから聞いてみただけなのにね。


それにしても、ここって人気がないのかしら?他の生徒が入らないで、私たちだけやることになるのは止めてほしいわ。それとも、名前が魔法研究所というだけで、本当は同好会とか・・・。


「でも、ルーが居るのなら、ここに入りたいって言う生徒雪崩れのように、詰め寄せて来そうだけれど?」


「うーん、そんな時もあったね・・・」


カーティスが、急にゲッソリしたように感じるわ。


「ありましたの?」


そんな彼を見て、ジュリアンナが心配そうに聞くの。優しいわ!でもその話、絶対ろくなことじゃないと思うのよね。


「ルーナが言った通り、ルーがここを立ち上げると言った時、大勢の生徒が押し寄せてきたよ。それだけだったら対処できたけど、争いが勃発したんだ・・・」


「勃発って、生徒同士の小競り合いなんて、可愛いものでしょ」


「そうですわよね。大人と違いますもの、勃発なんて大袈裟ですわよ」


基本、許可が下りている所以外では、学園内での魔法を使うことは禁止されているから、そんな激しい争いは起きないと思うのだけども・・・。


「そんな可愛いものじゃないよ。まぁ最初は誰が魔法研究所に入るのか、自己主張とお互いの牽制くらいだったけど・・・」


やけに、遠い目をするわね。


「でも、段々ヒートしてきて女子は掴み合いや髪の引っ張り合い、男子は殴り合いや蹴り合い。生徒だけではなく、先生までもが誰が顧問になるか争い始めて、カオスだったよ」


やっぱり、ろくなことじゃなかったわ。


「でも、魔法無しの争いでしょ?」


「魔法無しで、そんなに酷かったのでしょうか?」


「そうだね・・・ルーがやると決めて直ぐに、この部屋の室内で魔法を使える許可を、もうとっくに学園へ申請を出してあったんだよ。そして、その時にはもう許可が出ていた後だった・・・」


「「あ・・・」」


うん、何となく分かるわ。その時、起きたことが・・・。


「部屋の修復を、終わらせるようにするの大変だったよ」


ん?終わらせるようにするのって、どういう意味かしら?


「もちろん、部屋が修復するまで全員に、夜遅くまで残ってもらったぞ」


あら、先ほどまで居なかったのに、いつの間にか部屋に入ってきていたアンドリューが、私の後ろに立っていたわ。

でも、カーティスが言った「終わらせるようにするの」ってそういう意味だったのね。


「いや~、深夜までかかったな。生徒たちなんて、泣き泣きやってたぞ」


その時を思い出したのか、アンドリューが苦笑いをするわ。


「自業自得だわ」


「そうですわね」


「もう、あの時は僕も泣きたかったよ。みんな帰らないように、見張って居なきゃならなかったからね」


カーティスも思い出したのか、眉を下げて困ったような顔をしてるわ。大変だったのね~。


「抜け出そうとする奴がいたからな。先生も何か理由をつけて帰ろうとするし」


「全くだよ。悪いことしたのだから、最後まで責任もってやってほしいよ。でも、逃亡しようとする者は、ルーが全て論破で阻止してくれたからね~」


そう言えば、入学して間もないのに遅くまで帰って来なかった日があったわね。


「あぁ、あの日ね。遅かった時があったわ」


「お兄様も、遅くまで帰って来なかった日がありましたわ。そんなことがありましたのね」


私もだけど、ジュリアンナも何も知らされていなかったみたいだわ。


「でも次の日、みんな目の下に隈を作ってたね」


「本当、くっきり隈が出来てたよな」


誰の隈を思い出しているのか、分からないけど二人して笑っているわ。あなたたちも遅かったのだから、隈を作っていたはずよね?


「ねぇ、これこれ、見て見て」


離れた所で一人何かをやっていたデュランが、そう言って金属のトレイに持ってきたのは薔薇の花だわ。うっすら周りが凍っているようだけど・・・。


「凍っているみたいだね」


カーティスがそれに顔を近付けるわ。


「本当だな」


「そうですわね」


「これがどうしたのかしら?」


「ん。凍らせる空間の範囲を狭くすれば、使う魔力も減らせると思って」


相変わらず、魔法のことになると、長文で話すことが出来るのよね。


「でも、強度弱いんだ」


あ、凍らせる範囲を減らす分、氷の厚さがないから薔薇が簡単に折れちゃうのね。う~ん。氷の硬度について、何かで見た記憶があるのよね。不純物を無くすと強度が増すとか、マイナス70℃まで下げると鋼と同等くらいになるとか・・・。


ま、やってみた方が早いわよね。


「デュー、それ貸してくれる?」


「ん」


素直にデュランが、凍った薔薇を渡してくれたから、一旦解凍してもう一度凍らせることにするわ。

先ずは、手が凍傷になってしまうから、氷に触れないように手に膜を覆うようにして、不純物が入らないように周囲5㎜を凍らせて、マイナス70℃以下に温度を下げてっと。どうかしら?上手くいったかしら?

ちょっと、叩いてみましょう。テーブルで良いかしら?


コツッコツッ。


良かったわ。上手く出来たわ!


「ルーナ、それ・・・」


「触ってみる?でも、素手で持つと危ないから、手を魔力で膜を覆った方が良いわよ。気を付けて」


みんなが興味深くこちらを見ている中、デューがそう言ってきたので、凍った薔薇を手渡したわ。

その薔薇を強く握ってみたり、折ろうとしてみたりするけど、壊れないし折れもしないわ。


「凄いけど、失敗」


「え、どうして?」


強度は高くなったわよね?


「目的は魔力を減らすこと、この魔法は魔力をたくさん使うから」


「あ・・・」


「やっぱ、ルーナだよな」


「ルーナ、ちょっとズレてるね」


「ん。発想は凄いけど」


「ルーナ、何かには役に立つと思いますわよ」


みんなが、残念そうにこちらを見るわ。うぅジュリアンナ、その優しい言葉は逆に辛いわ・・・。

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