第4話 悪いことはダメだって子供でも分かることだわ

 そうね、賊たちは仲間を殺さないようにしているはずだから、わざと手を抜いている人を護衛の中から探せば良いのかしら?

 うぅ~、それが分かる魔法が有れば・・・あ!テレビで見た記憶があるわ。筋肉を使う時に脳から脊髄や末梢神経を通して、電気信号みたいなのが走るって。そうよ、電気信号の流れが弱い者を探せば良いのよ!


 はい、それでは!手を抜いているのは、だーれ?


 脳から出る電気信号を魔法で見える化して、流れを確認してみたの。そうしたら、馬車の近くで戦っている3人の護衛と、その護衛に攻撃している3人の賊以外は電気信号の流れが弱かったのよ。


 敵を欺くには味方から!と本気で戦う人もいるかもしれないわ・・・と思っていたけども、居なかったみたいだわ。なんか、がっかりね。そんな人たちのシールドは、取っ払っちゃうわよ!

 ・・・あら?戦っている護衛の死角から、見つからないように賊の一人が馬車に近付いているわ。もしかして、馬車の中に入ってターゲットを攻撃して、誰かに気付かれる前に、早く目的を終わらせて立ち去ろうとしているのじゃないかしら?そんな、思うようにはさせないわ!魔法で賊が入れないようにした方が良いわよね。それに、馬車の外の音も小さくして聞こえないようにすれば、公爵夫人たちの怖さも軽減されるのじゃないかしら。危ないから馬車の中に攻撃がいかないようにもしましょう!剣が馬車に刺さって中まで突き抜けたら、ケガをしなくてもビックリしちゃうものね。


 近寄る賊を横目に、ニコニコと馬車に魔法かけたわ。すると、賊の男は扉を開けようとするけど、全然開けられないの。更に力を入れ必死になって開けようと足掻いているけど、全くビクともしないので首を傾げているわ。今度は、剣を使って抉じ開けようとしているわ。

 ガタガタ、ガチャガチャ、ガンガンと、それが段々と焦って行動が大胆になってきたわ。そんな様子に賊の仲間が奇妙に思ったみたい、一人が駆け寄って一緒に開けようとするけど、それでも開けられないの。

 更に、3人の本物の護衛と戦っている者以外が痺れを切らし集まりだしたのよ。もちろん、護衛に扮した敵も含めよ。そして、みんなで扉を開けようとするけど全く開かないの。


 あらら~みんな集まっちゃって大丈夫なのかしら?これじゃ、馬車に集まっている護衛も賊の仲間だってバレバレよね。戦っている護衛の人たちも気付いているわよ。


 馬車の中の公爵夫人や子供たちは先程まで、恐怖もピークになっていたみたいだけど、外の音が小さくなってから、少し持ち直したみたいだわ。夫人は、「大丈夫よ、助けが直ぐに来ますから」と二人を励ましているのよ。流石だわ~。

 賊たちが馬車を抉じ開けるのに夢中になっている間、彼らがかけている断系の魔法を無効化してみせるわ。


 それじゃ、やってみましょう!


 魔法を無効化して・・・おぉ!早速いらっしゃったわ~警備の方たちかしら?まだ遠いから大丈夫そうだけど、賊たちがあれに気付いたら逃げちゃうわよね?近くに来るまで、魔法で気付かれないようにしちゃいましょう。


「公爵家の護衛ですか!?加勢いたします!」


 やっと着いたわ~。気付かれないうちに、魔法を解いちゃった方が良いわよね。


 賊の剣をはねのけ、警備の人たちの一人が戦っている護衛に声をかける。


「っ!?・・・ありがたい!中に殿下が居られます!!お願いしたい!」


 助けられた護衛は、魔法のせいか人が近付いていたことに気付かず驚いたみただけど、警備の彼の言葉で直ぐに助けられたのが分かったみたいで、王子様の身の保護を頼んだわ。


「ここにいる私たち3人以外、馬車の周囲にいる護衛らは賊の仲間のようです!」


「物取りの賊というよりは、訓練してきた騎士の戦い方です!気を付けて下さい!!」


 他の護衛二人も、警備隊に声をかけるわ。


「分かりました。直ぐにでも、殿下をお助け致します」


 彼は頷きそう言うと、次に仲間たちに向かって大声を張り上げたわ。


「殿下が中に居られる!!馬車の周囲の護衛らは、賊の仲間だそうだ!奴らは騎士と同等の戦い方とのこと、全員気を引き締めて奴らを確保し、殿下を守りきれ!!」


「「「「「了解!!」」」」」


 もうすでに賊たちと剣を交えていた警備の人たちが、負けずと声を張り上げたわ。そして彼らは、殺さないように腕や足を中心に狙いを定め、攻撃をしているわ。馬車の周囲にいた護衛たちは、オレは違うとか助けようとしていたとか喚いて逃れようとしたようだけど、それは叶わなかったわ。


 あら?ハンフレイパパだわ。騒ぎを聞きつけ屋敷から駆け付けて来たのね。


 彼が、警備の人たちより駆け付けるのが遅かったのは、使用人たちが制止していたからみたいね。ハンフレイパパが剣を片手に、使用人を振り払いながらこちらに駆け寄ってくるわ。そして、警備の人たちに加勢した彼は、見た目と雰囲気に反し以外と強かったの。

 ハンフレイパパが加勢したお陰か直ぐに鎮圧できたけど、怪我人も出てみんな無事とは言えなかったわ。でも、全員の賊を捕らえられることが出来て、胸を撫で下ろすことができたの。

 そして私は、警備の人たちが馬車の扉を開ける前に、夫人や子供たちにかけていたシールドの魔法以外を全て解いたわ。


 警備の人たちは少しケガしちゃったけど、なんとかみんな無事で良かったわ。まったく!子供たちの笑顔を脅かすなんて、とっても酷い悪党たちだわ!!怖くて外に出れないなんて子供たちがなったら、私に会いに来てくれなくなっちゃうじゃないの!もう、何が目的だったのかしら?ちょっと、自白剤みたいな魔法をかけておいても良いわよね。これも、一週間くらい保つようにしておきましょう!

 でも私って、凄いんじゃないかしら!?こんなに魔法を使っても魔力が切れないなんて!まだ、産まれて7ヶ月くらいの赤ちゃんなのによ!


「御無事ですか!?」


 護衛や警備の人たちの手を借りて、馬車から降りる公爵夫人と子供たちに、ハンフレイパパは焦慮にとらわれながら声をかけるわ。そして、子供たちに近付いてしゃがみこむと、ぎゅっと二人ごと抱き締めたの。すると、彼の行動によって子供たちは緊張の糸が切れたのか、ひっくひっくと始まり、終には抱き付いてわんわんと大声で泣き始めたのよ。それをハンフレイパパは、黙って彼らの背を撫でたわ。

 そして、彼らが落ち着き泣き止むまで、みんなが快く待ってくれたのよ。自分の子供と重ねているのか、涙ぐむ人もいたわ。


 なんか、みんな良い人たちばかりで、こっちも泣けてくるわ~流石、私の父親だわ!


「・・・お怪我は無いですか?」


 落ち着き始めた子供たちに、ハンフレイパパが体を離しながら声をかけると、彼らはコクンっと頷いたの。そんな愛くるしい様子に、二人の頭を撫でるともじもじとし始めて、エドワードは母親に駆け寄り、照れながらドレスの裾をぎゅっと握って顔を隠そうとするわ。ルーカスは、撫でられ慣れていないようで、照れ臭そうだが嬉しそうに撫でられ続けているわ。ハンフレイパパが彼を抱き上げると、まだ顔色が青い公爵夫人に気を使い、気付かぬふりをして声をかけるの。


「ベネディクト公爵夫人、御無事で何よりです。公爵家にはご連絡致しましたので、直ぐにでもお迎えがいらっしゃると思います」


「・・・ありがとう存じます。ご迷惑をお掛け致します」


 それを微塵とも見せず、公爵夫人は顔を隠しているエドワードの頭に手を置きつつ、貴族として毅然とした態度で答えたわ。本当に貴族の鏡よね。


「お迎えがいらっしゃるまで、うちにお戻りになられますか?」


「よろしいのでしょうか?子供たちがいますので、ここに残るのは不安でしたの」


「はい、私も一緒に馬車に乗りますので、ご安心ください」


 公爵夫人は、毅然な態度で対応していたが、今ここで襲われた場所に子供たちと留まるのは、不安だったようだわ。

 喧騒が落ち着いたのに気付いたのか、馬車の下から這い出てきた御者に屋敷に戻るようにハンフレイパパが言うと、少し離れた所で様子を見ていた女性の使用人の一人を呼んだわ。

 そして彼は、夫人と子供たちと一緒に馬車の中に乗り込むの。だが、子供がいるとは言え、公爵夫人と二人で馬車の中とはマズイので、使用人も乗せて屋敷に戻るみたいだわ。

 それから困ったことに、抱き上げられてからずっと屋敷に戻っても、ルーカスは始終ハンフレイパパに張り付いたままで、離れようとしないのよ。何回かハンフレイパパは下ろそうとするけど、ぎゅっと力を入れてしがみついてくるので、無理矢理剥がすのは可哀想だと思い、少しこのままにしておこうと諦めてたわ。

 でも、それに面白くないのはカーティスなのよ。ソファーに座るハンフレイパパとルーカスの間に無理矢理割り込もうとするカーティスも凄いけど、それを死守するルーカスも凄いわ。そんな様子を微笑ましそうに大人たちは見ているわ。もちろんハンフレイパパは、自分を取り合う彼らの行動に凄く嬉しそうで、どちらの頭も撫でているのよ。


「ぼくのおとうさまなのに~」


 その攻防戦に負けたカーティスは、終いには泣き始めたわ。それを母が、カーティスの側に行き抱き上げると宥め始めたの。


「カーティス、ルーカス殿下は怖いことが起きて不安なのよ。少しの間、お父様を貸してあげられないかしら?」


 直ぐに泣き止んできたカーティスは、母の言葉にむむむっと悩むと、蚊が鳴くような小さな音量で、仕方なさそうに「いいよ」と言い頷いたわ。ビクビクと自分を押し殺して、言いたいことが言えなかったあのカーティスが、子供らしく自分を主張出来るようになったことは、喜ばしいことだわ。


 やっぱり、子供が育つ環境って、とても大事だと思うのだわ!


 それから、数時間経たず公爵家で迎えが来たの。ベネディクト公爵本人がよ・・・。

 ジュディーヌ!と、妻の名前を叫びながら慌てたように屋敷の中に入ってきた水色の髪にスカイブルーの瞳の彼は、妻の顔を見るとホッとして人目も憚らず抱き締めたわ。そして、次に床に膝を付くと、エドワードを抱き締めたの。

 愛妻家の彼は、仕事を早く終わらせて公爵家のタウンハウスで妻と息子の帰りを待っていたが、彼女らが襲われたという報告を受けて、直ぐ様馬で駆け付けたようなのよ。帰りは乗ってきた馬はどうする?と、後先考えずにね・・・。

 それを出来る執事は、慌てず騒がずフォローしているようだわ。護衛が3人になったのでは心持たないであろうと、公爵がここに着いた後に急遽派遣された護衛の5人も馬と馬車に乗ってやって来たの。これで公爵は夫人たちと一緒に馬車に乗って、帰ることが出来るようになるわね。

 そして問題は、ルーカスなの。帰りたくないと駄々をこね始めたのよ。この屋敷に泊まると言って聞かなくて、みんなお手上げの状態だったけど、ハンフレイパパの「これはただの我が儘です。今の殿下では、私は一緒に居たいと思えません」と言う言葉に、ガーンっとショックを受けたようだけど、「わがままいわないようにするから、またあってほしい」とお願いをし、それをハンフレイパパが了承すると公爵たちと帰っていったわ。それに安堵した大人たちは、疲労感たっぷりの顔をしていたわ。


 王族だけどルーカスもまだ幼い子供なのね。でもなんというか、帰り際のルーカスは、『エレセイ』の優雅な感じと雰囲気が全く違う感じになっているわね。もし、私の行動のせいで変わってしまったのなら、それで良いと思うわ。子供らしくて良いと思わない?本当に『エレセイ』の世界だったとしてもよ。自分がやったことに後悔はないわ!なので、ガッツリ介入することしたわ!『エレセイ』の世界を楽しむのも、それも一興よね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る