第3話 犯人やスパイホイホイの魔法が有ったら最高だわ!

「ルーカス殿下も、こちらに伺いしたいとおっしゃった時は困惑いたしましたが、ベネディクト公爵夫人もご一緒してくださると、おっしゃっていただいて安堵いたしましたわ」


 現実逃避をしていると、そんなボールドウィン侯爵夫人の言葉が、耳に入ってきたわ。


 ルーカス殿下・・・?


あら?やっぱりなのかしら?この子たちがあの乙女ゲームの攻略対象者たちと名前が全く同じで、髪や瞳の色も全く同じで、雰囲気もそれぞれに似ているのは、偶々の偶然が纏まってきたのね!と思おうとしていたけど、違かったのね。このキラキラの子があのゲームに出てくる王太子の名前と同じ"ルーカス"だということは、本物の乙女ゲームの攻略対象者なのではないかしら!?つまり、『エレノア~聖なる導きを貴方と共に~』略して『エレセイ』という乙女ゲームの世界に転生しちゃったのかしら?!私!・・・いや、でも、まだ確実とは言いきれないわよね。もう、『エレセイ』の世界を肌で感じるなんて、恐れ多いというか、彼らの青春を見てみたい気持ちもあるけど、どうしましょう!!複雑な心境だわ!さぁ、深呼吸して落ち着くのよ、アリアルーナ!


 すぅ~はぁ~。


 えーと、ヒロインはエレノアという子爵令嬢で、ど田舎で暮らしていたから、距離が近く貴族の常識が通用しなくて、皆を振り回していくのよね・・・そんなエレノアを新鮮に感じて上級貴族たちの一部は、好意を持ち始めるのだわ。それとは別に、魔法も勉強も運動も出来る優等生なエレノアは、ごく一部のプライドの高い貴族たちに妬まれてしまうのよね。でもそれは、とある切っ掛けで努力の結果というのが分かるのよ・・・そんな健気な彼女に惹かれ、攻略対象者たちと恋愛に発展していくのだけど、様々な障害が起こるの!そして、それを乗り越えて恋が実るという感じで、ハッピーエンドに持っていくのがこのゲームの特徴なのよ。あぁ懐かしいわ・・・自分のことは覚えてないけど、やっていたという記憶だけはあるのよね。

 それで、その障害の1つ、悪役令嬢のジュリアンナは、エド様の妹で・・・あ!!さっき、ベネディクト公爵夫人が、娘の名前がジュリアンナと言っていたわ!やっぱりこの世界は、『エレセイ』なのだわっ。

 いや、待って待って、まだ決定的な物証がないわ・・・あ!そう言えば、ジュリアンナが悪役令嬢になった切っ掛けって、物心付く前に母親が亡くなったことなのよね。それを不憫に思った父親とエドワードが甘やかしていくのだけど、我が儘が酷くなりすぎて、それに手を焼いて二人は距離を置くようになるのよ~。でも、それが更なる悪循環を生むの!構ってほしくて気を引く行動をするけど見向きもされなくて、ジュリアンナはもっと変な方向に向かって行き、癇癪持ちの攻撃的な性格になっていったという設定だったのよね。さらりとしかゲームでは流れないから、攻略本やネットで調べ尽くした記憶があるわ・・・で、構ってちゃんな行動が二人にだけじゃなくて、周りの人たちにも向いているのがネックなのよね。

 そして、学園に入学して出会った、老若男女その他諸々の皆に好かれるヒロインを、目の敵にしてイジメていくのよ。そのイジメが度を超していくから、王太子やエドワードたちに、彼らの卒業パーティーで断罪されるの・・・納得いかなかったわ。それって、ジュリアンナが全部悪いの?と思ったのよ。

 ゲームをやり初めたうちは、もちろん悪役令嬢に対して良い感情は無かったわ。でも、ゲームを何回もやっていくと冷静になるのよね・・・こんな悪役令嬢になった原因って、父親とエドワードよね?って。それだけじゃないわ。これ見よがしにヒロインは、攻略対象者と仲良くしているのを見せつけて、ジュリアンナの取り巻きたちも、煽ること言うのよ!ゲームに出てくる聖獣たちもヒロインには無条件で懐くのに、悪役令嬢には寄り付きもしないんだから!!私が親だったら、こんなふうに育てないし、間違ったことは注意して愛情をたっぷり注ぐのに!と思ったわ。あら?このゲームやってた時って、私って何歳だったのかしら?

 もう、私って『エレセイ』の話になるとダメね!話がかなり脱線してしまったわ。

 ・・・確か、ジュリアンナの母親のベネディクト公爵夫人が亡くなるのって、ルーカスと一緒に公爵家の馬車で出掛けている時に、公爵家に恨みを持つ者に襲われて、彼女がルーカスを庇って亡くなるのよね。それを恩に感じてルーカスは、数年後ジュリアンナを婚約者にするのよ。そんなキラキラの王子様に対して、ジュリアンナは何も考えずステキ!と思って了承しちゃうのよね・・・でも、我が儘なジュリアンナに嫌気が差して、彼女とは正反対の純粋で明るいエレノアと恋に落ち、ジュリアンナを断罪してしまうのにね。恩を仇で返すって、この事を言うのじゃないかしら?家族がちゃんと注意しないのなら将来の伴侶として、悪いことは悪い言い聞かせて、ジュリアンナを改心させれば良かったはずよ。この王子が国を担っていくのかと思ったら、画面の外からだけど不安になったわ。ゲームの世界のことだったけど・・・え?ちょっと待って、ヤバイわ、この世界が『エレセイ』の世界だったら、あり得ることよね?ゲームのような王太子になっていくのなら最悪だわ!!

 あ、また脱線しちゃったわ。ホント、『エレセイ』の話になるとダメだわ~。話を戻しましょう!この世界が『エレセイ』かどうかということで、ゲームのシナリオを思い出していたのよね。この子たちが学園でヒロインのエレノアと出会う前の、幼い時のシナリオを思い出さないといけないわ。殆んどは幼いエレノアが、この子たち以外の攻略対象者の数人と、実は会っていたという物ばかりなのよね。だから、この今の段階で『エレセイ』の世界なのかと分かるゲームの内容と言えば、ルーカスとエドワードが賊に襲われる時よね・・・。

 ん?んん?あら?もしかして・・・ルーカス、お出掛け、馬車、物心付く前・・・いやー!!公爵夫人たちが襲われるの今日なのかしら?!いや、待って!まだゲームの世界だと限ったわけではないわ!!

 でも、もしそうだったら・・・あぁ!助けちゃ駄目なのかしら?助けちゃうと、ゲームの流れを変えちゃうのよね・・・うぅ~、でも、知っているのに死なせるなんて、後味が悪いなんてものじゃないわ。凄く後悔しそうだわ。嫌だわ~。みんなが泣くわ!悲しむわ!笑顔が無くなるわ!

 ・・・うん、そうよね。まだ『エレセイ』の世界だと、確定した訳じゃないわよね・・・なら、こっそり魔法を使おうかしら?物理攻撃も魔法攻撃も受けない、シールドみたいなものが良いわね。あと、危険が迫ったら知らせる魔法も付けて、どうせなら全員にかけた方が良いわよね。期間は一週間にしようかしら?もしもの可能性もあるものね。夫人たちはお喋りとお茶を楽しんでいるし、子供たちは使用人と私の攻防戦を繰り広げているわね。ばれちゃうから、魔法にかかった時に光らないようにお願いね、魔法さん!




 そんなこんなで、やっと帰って行ったわ・・・子供は好きだけど、自分が赤ちゃんだと何をされるか分からないから、ハラハラドキドキでストレスだったわ。


 ピロリロリン、ピロリロリン!


 ホッと息を付いていたのだけど、突如心臓に悪い音が頭に鳴り響いたわ。防災のエリアメールを想像して魔法をかけたのがいけなかったわね。


 え?ちょっと待ってよ。もう襲われているの?早すぎるわ。この屋敷から出て、まだそんなに経っていないわよ?・・・まさか、うちの近くで襲って、濡れ衣を着せるつもりなのかしら?!


 直ぐ様確認しましょう!


慌てて公爵家の馬車を魔法で確認してみると、場所は道のど真ん中だったのよ!

 産まれこのかた、外に出たことがないから確かではないけど、うちの屋敷の前を通る道で、隣の屋敷との間の位置だと思うわ。でも、可笑しいのよ。沢山の護衛がいる中、それより少ない人数の賊たちに押されていて、とても目立っているの。

 それに、馬車の下に震えながら隠れている御者には、目もくれずいるの。本来だったら真っ先に馬車を操る御者を狙うと思うのだけど、それをしていないうえ、先に行ったのか侯爵家の馬車が見当たらないのも疑問に思うわ。

 タウンハウスが犇めく貴族街のど真ん中よ?どこの屋敷も庭も大きいから、建物が密集していない程よい距離のある所だけど、何かがあれば目立つ所よ。なのに侯爵家の護衛の者たちは、公爵家の馬車が襲われているのに気付かずそのまま馬車を進め、更に周囲の屋敷の人たちも気付いて駆ける気配もないのは変だわ。それに貴族街では、警備している人たちが居るはずなのに、それも一人も見当たらないのなんて変よね。


 本当に変だわ。この状況で誰も駆けつけないなんて・・・音や視界を遮断する魔法でも使っているのかしら?でも、そんな簡単な魔法を、王子の護衛が気付かないわけも対処出来ないわけないわよね?

 しかも、王子を守る人たちが、こんなに弱い者なの?もしかして、わざとなのかしら?例えば、襲われて押されているよう見せているとか・・・あ、護衛の中に賊の仲間が紛れ込んでいて、身内を引き入れた者がいるかもだわ!ということは、スパイかしら?スパイがいるのね!

 そいうことなら、彼らには死なない程度に弱いシールドかけて、スパイをあぶり出すのに、少し様子を見ようかしら。


また、ばれないように光らないでね、魔法さん。ちょちょいのちょ~いっと。


 そして、公爵夫人たちが心配だから馬車の中の様子を見てみると、皆が顔を青ざめて不安そうに肩を寄せあっていたの。目に涙を溜めてうるうるとしているけど、2才くらいの子供がこんな状況でも泣き喚かないのは、王族や貴族として躾られているからなのかしら。不憫だわ・・・。


 屋敷を出る前に、皆にシールドの魔法をかけたから大丈夫だと思うのだけど・・・でも、ここで賊が馬車の中に入ってきて攻撃したら大変よね。魔法のおかげで公爵夫人が死ななくても、この子たちにとっては酷いトラウマになりそうだわ。あぁ!PTSDになってフラッシュバックとか起こすようになったら・・・様子を見るなんて止めて、早く護衛の中の犯人を見つけちゃいましょう!


 ・・・とは言っても難しいわよね、スパイを見つけるなんて私素人だもの。スパイや犯人を引き寄せる、スパイホイホイや犯人ホイホイみたいな魔法があったら良いのにだわ。それか、スパイや犯人が分かるセンサーみたいな魔法が有れば良いのだけど・・・うーん、犯人とスパイホイホイが欲しいわ。

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