第14話 修羅場part2

 放課後。

 本当の修羅場はこれから始まる。

 そう思っていた・・・・・・。


「柏君。ちょっといい?」

「あ、あぁ・・・・・・」


 響の後に続いて教室を後にすると美術室へと連れて行かれた。

(美術室か・・・・・・)

 俺は昔のーーー渚と付き合っていた頃のことを思い出していた。

 渚は絵を描くことが好きだった。

 放課後は渚以外誰もいない美術室でよく一緒に絵を描いたり喋ったりして同じ時間を共有していた。

 一体どこで間違えたんだろうな・・・・・・?

 あんなに仲がよかったのにその関係が崩れるのは一瞬だった。

 この時、人間関係とはいかに脆く簡単に壊れるものだということを知った。

 そして、自信も・・・・・・。

 美術室の扉を開けて響が中に入っていった。


「大野さん。連れてきたわよ」


 部屋の中には渚がいてカンヴァスに向かって筆を走らせていた。

 懐かしいな・・・・・・。


「あ、来たんだ」

「絵、描いてるんだな」

「うん。久しぶりにね」

「なんか、懐かしいな」


 俺は渚の少し後ろに椅子を持ていって座った。

 あの頃もこうやって渚が絵を描いているのを少し後ろから眺めていたっけ。

 

「ちょっと〜。二人の空間にしないでくれる?」


 そう言って響が俺の首に腕を回してきた。

 

「あ、悪い・・・・・・」

「ちゃんと私もいるんだからね!」


 自分がいると証明するかのように響は俺の背中に胸を押し付けてきた。

 

「やめろって!ラブコメかよ!」

「え?違うの?この展開はいかにもラブコメの展開じゃん!これから元カノと今カノのバチバチのバトルが繰り広げられようとしてるんだよ?」

「いつ九条さんが俺の彼女になったんだよ!?」

「え〜。一緒にデートもしたじゃん!」

「一緒にフリーマーケットに行っただけな!」


 俺と響がそんなやりとりをしていると、今度は渚が「ちょっと、二人の空間にしないでくれない?」と言って睨みつけてきた。


「で、なんで俺をここに呼んだんだよ?」

「それは、さっき言ったじゃん!これから元カノと今カノの勝負が始まるんだって!」

「いや、意味が分からん。それと、何回も言うけど、九条さんは俺の彼女じゃないから」

「もぅ〜。なんで認めてくれなのかな〜。こんなに柏君のことが大好きなのに!」

 

 そう言って、響はさらに胸を押しつけていた。

 

「胸を押し付けるなって!これはラブコメじゃないんだから!」

「え、宗ちゃんこれはラブコメだよ?」

「え、そうなのか?って、そんなわけないだろ!渚までなに言ってんだよ」

「あはは、冗談だって。宗ちゃんに来てもらったのはね。確かめるためだよ」

「何を?」

「それは、響ちゃんが宗ちゃんのことを本当に好きかどうかだよ」

「は?」

 

 何だそれ・・・・・・。

 渚は何を言ってるんだ・・・・・・?

 だって、二人は朝・・・・・・。


「二人は喧嘩してたんじゃないのか?」

「なにそれ?私たちが喧嘩?そんなのするわけないじゃん。ねぇ、響ちゃん」

「そうだよ〜。渚ちゃんとは友達だよ〜」

 

 そう言って渚に抱きついた響。


「待て待て!?状況が理解できない!?じゃあ、朝のあのやりとりは何だったんだよ」

「それはもちろん演技だよ?」

「演技・・・・・・何のために?」

「ん〜。何のためだっけ?」

「響ちゃんがラブコメ展開したいって言ったんじゃん!」

「あ〜!そうだったね!そしたら、なぜか星くんが私たちを止めに来たんだよね」


 そういうことか。

 やけにすぐに火花が消えたと思ったら、そもそも演技だったわけね。

 てか、渉のやつ含みのある言い方しやがって。


「まったく、何でそんなことしたんだよ。渚もそんなことに付き合うなよな」

「それは・・・・・・こういうことやったら少しはラブコメの良さが分かるのかなって思って・・・・・・」

「ラブコメの良さを知りたいならラブコメを読めよ!」


 俺が正論を言うと渚は、しょぼんとした顔をした。


「渚ちゃんを責めないであげて、私がやりたいって誘ったの」

「うん。まぁ、そうなんだろうね」


 あんなこと、渚がやりたいとは言い出さないだろう。

 言うとすれば、ラブコメをこよなく愛してる響くらいだろう。


「じゃあ、朝のあれはわざとだったんだな?」

「うん」

「そう」

「ビクビクして損したわ。美術室に呼び出された華ら、てっきりこれから修羅場に巻き込まれるのかと・・・・・・」

「私と響ちゃんが宗ちゃんを取り合って喧嘩してた方がよかった?」

「いや、それはそれで困るな」


 どっちを選べと言われても、俺にはどっちかを選ぶ資格も自信はない。

 だから、これでよかったのかもしれない・・・・・・。


「じゃあ、二人は本当は仲良しなんだな?」

「うん」

「そう」

「てか、いつの間に仲良くなったんだよ」

「それはね〜。秘密だよ!柏君!私と渚ちゃんだけのね!」

「あ、そう・・・・・・」


 何はともあれ、修羅場に巻き込まれなくてよかった。 

 そう思って、ほっと息を吐いた俺であった。

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