7話
ガラガラガラ
パンパン
現在、お茶屋の仕事が終わってから良いことがあった時のみ恒例の、ご近所の神社にお参りの真っ最中。ガラガラと鳴ったのは神社で参拝する時に鳴らす鈴で、パンパンというのは二礼二拍手一礼をしたから。
最近では夏ということで、この町でも時折浴衣姿等が見られます。
可愛い女の子の浴衣姿やら、格好いい子の甚平姿やら。幼い金魚みたいな愛らしい子供達も居る。正直目が眼福です。
ちょい渋いオジサマ達の着流しも見られたりしているし、都会に出て来て良かった。
そして……あの、時折子供達の金魚みたいな女の子達の浴衣、レースでゴテゴテしている子も居てビックリする。俺の田舎ではこういった着物とかは見たこと無かったから、都会って凄いなぁと思っている。とは言え田舎から出て来て10年は経過しているのだけど、学生時代はこうして神社に等滅多に来たりはしなかったので偶々視界に入っていなかっただけなのだろう。
ああ、日々お礼申し上げます神様、有難う御座います。
そして他宗教の神様方も有難う。俺、神様なら何でも拝みたい人なので全部拝み倒します。
参拝を終えて一礼し、移動。
夏祭りは何時だったっけ。
周囲を伺うと書いてあった。来月か。前夜祭の次の日に屋台が立つ、と。
ふむふむ、記憶しておこう。
そうそう、お賽銭は何時も55円入れております。
特に意味も無いのだけど、何となくの俺なりのこだわり。50円玉と5円玉を一つずつ入れてスッキリ。偶に50円玉が無かったり、1円玉だらけになったりする時もあるけれど、そんな時はご愛嬌。お賽銭は入れないよりは入れたほうが良いですからね。
気分もスッキリ致します。
嗚呼でも……
実家の神社にはもう足を踏み込みたくは無い、かな。
思えばあの時、地元を出る決意をしてから二度と帰っては居ない。
実家の母が年末年始やお盆近くなると五月蝿く帰省しろと言うけれど、俺は未だに気持ちの整理がつかなくて故郷に帰ることが出来ない。
「運命の番、か…」
あの時、地元の神社にて俺が初めてヒートを起こした運命の相手。
その運命の相手は、左手に輝く指輪を嵌めていて。幸せそうに、大事そうに、可愛らしい人の肩を抱いて歩いていた。
『運命の番』は俺だったのに。
俺の番相手は別の人の手を取って幸せそうに微笑んでいたんだ、あの時俺の姿を見るまでは。
可愛らしい人と平凡なΩの俺。
出遅れたΩと、可愛い大人の人。
中学生の俺と社会人の女性。
どう考えても分が悪いのは俺だった。
「何が運命だよ…最低の運命じゃねーか」
だからこそ、高校は寮がある学校へと逃げるように地元を出て都会へと行き。αとΩの学園へと入学したし、地元へはそれっきり戻っては居ない。出会ったαのあの人がどうなったのか、聞きたくもなかったし知りたくも無かった。
ただあの当時は既に既婚者であったということだけは、今でも目や耳にこびり付いている。
名前の知らない赤の他人。
そう思い込ませて、暗示を掛けて、二度と会わないと決めた人。
「運命?」
「え」
「店長、『運命の番』と出会ったのか」
俺の背後から聞き慣れた声。
振り返ると見知った、人。
俺が店舗で朝食を作る切っ掛けになった、大家さんが目を大きく見開き、驚きに満ちた顔で此方を見詰めていた。
「おかしい、ですか。俺が『運命』に出会って」
聞かれていた。
独り言を呟いていただけなのに。
「いいや」
「こう見えてもΩです。平凡な見た目ですけど」
「店長は可愛い」
「ふふ、お世辞有難う御座います。でも俺は可愛くは無いのです。だから運命にフラれたのです」
とは言えあの当時、俺は中学生。
運命の相手は結婚をしていたのでいい大人だったのだろう。
…知らんけど。
未成年に手を出すような人では無かった、良識ある大人だったのだとわかればそれで十分。
後は知らない。
あの人との夢は見ない。
何せ既婚者だったのだから。
見てもどうにもなれないし、なろうとも思わない。
所詮運命といいながらも交わらなかった運命なのだから。
「他は知らないが、俺は店長が可愛いと思う」
「お世辞はもういいです」
「事実だ」
「えっと」
「俺は店長が、小林さんが誰よりも可愛いと思う」
ドキッとした。
だって大家さんが、嵯峨さんが真剣な顔付きで俺を見るから。
「冗談、ですよね」
「そうじゃない」
だとしたら一体何なんなのだ。
「あ、そうか。俺、朝飯係ですものね」
「そうじゃない」
「あの、これ以上言ったら流石の俺も勘違いしますよ?」
「勘違いじゃない」
「…は?」
「悪い、もう行く」
「あ、はい、えっと」
「また明日」
「はい」
…え、えーと。
大家さん大急ぎって感じでこの場を去っていったけど。
どういうコト。
勘違いしちゃっていいってこと、ですか??
※
内容紹介の文章、やっと此処で回収。
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