6話

 

「店長~朝ごはんちょうだい、二人分ね」


 最近良く朝ごはんを食いに来る各務さんが、旦那さんの道和さんを連れ立って入店。

 一気に店内が賑やかに、華々しくなる。

 美形率ほぼ90%。因みに店長である俺が率を下げております。

 く、悔しくなんか無いんだからね!


 …げふ。

 何だか心に深い傷を負った気分です…。


「おう、おはよう」

「おはよう~」

「お早う御座います」


 本日は開店直後に来た大家さんが、腹減ったとばかりに大口を開けてカウンターで飯食っています。

 どうでも良いけど最近うちの店、朝食屋みたいになっている気がするなぁ。まぁ良いけど。商売繁盛、これ大事。


「今日のおかずはなぁーにー」

「本日はいい魚が入らなかったので、ハムエッグです」

「ええええー」


 ショックという顔をしている各務さん。ほんっと、この人はお魚が好きな人だよなぁ。特に煮魚が大好物。朝から出すと上機嫌になるものね。


「店長さん~でも、でも~!何で大家さんにはお魚のフライがあるの!?」


 そう、カウンター席に座っている大家さんの前にあるお皿には小魚のフライ。

 当然とばかりに並べられた朝食にはハムエッグもあったりする。

 相変わらずの大食漢だ。


「運良く昨日、魚取りの仕掛けに小ぶりだけど幾つか取れたので。良かったら食べますか?」

「食べる!!」

「各務、落ち着け。店長それは幾らだ?もしまだあるなら俺も頼む」

「大丈夫ですよ、沢山取れたので」

「店長さん、海とか川にでも行って来たの?」

「ええ、ちょっと面白い子と一緒に行って来ました」


「面白い子?」とキョトンとした顔で小首を傾げている各務さん。そしてその様子を見詰める道和さん。道和さんのその顔は、見るからに可愛いとか何とか思っているらしく、うっとりとしている。


「各務さん達の学校に通って居る学生さんと釣りに行った時に知り合いまして」

「えーうちの学校の子で海に釣りに行く子って居た?」


 ううーんと悩み始める各務さん。その姿を再度うっとり見詰める道和さん。

 それらを無視して朝食を一心不乱に食している大家さん。


 あ、大家さんといえば最近何度も「大家さん」と呼んでいた為か、「嵯峨」と呼べと訂正されてしまいました。

 お陰で最近は「嵯峨さん」と呼んでおります。

 まぁウッカリしているとつい大家さんって呼んでしまいます。心の中でも未だに大家さんと呼んでしまうし、しかも「イケメン大家さん」と。

 これは知られると恥ずかしい。

 事実だけど。

 うっかり口にしない様に気をつけないと。


「結構可愛いαの男の子ですよ」

「ええ、αなのに可愛いの?」


 Ωの各務さん程ではありませんと内心思いつつ、


「見た目は兎も角、中身がお茶目で悪戯好きの可愛い子ですよ」

「道和知っている?」

「うーん…?」


 アレ、今大家さんから妙な視線を感じたけれど。気のせいかな。


「うちの学校って結構特殊だからなぁ、お金持ちのお坊ちゃんお嬢ちゃんも多いし」


 確かに。

 αとΩ専用の学園の教師をしていますものね、このご夫夫(ふうふ)。


「因みにハムエッグのハムは田舎に住んでいる幼馴染が家業を継いで、初めて作ったハムだそうで。とても美味しいですよ」


 これには各務さんは反応がないが、旦那さんの方である道和さんの瞳がキラーンと光る。

 そう言えばこの人は男らしく、魚より肉派だった。


「店長、ハムエッグもう一つ。出来たらハム多めで」

「はい、ご注文有難う御座います。でもハムは数に限りがありますので多めは却下です」

「うぐぐ」


「道和~僕も注文するから、ハム食べる?卵はちょうだいね」


 はい、安定のアツアツカップルさんです。

 仲良くお二人でおかずの譲り合い。

 箸を動かして時折「あーん」。ヤバい。色々ヤバイ。

 美男美人(美女はいないから)が目の前で幸せそう…!はい、眼福です。


 チラリと大家さんの方を見ると、そろそろ終わりかな。

 それなら本日は締めの御茶である冷やし焙じ茶を冷蔵庫から取り出し、大家さんの目の前にお出しする。


「これは?」

「本日から始めました、〆の御茶です。今日は暑いですからね、冷やした焙じ茶にしてみました」


「へ~」と言う大家さん。

 最近この店が定食屋や朝食屋な雰囲気になっていて、【お茶屋】だと言う事実が吹き飛びそう。だからこそ御茶アピールの一貫として始めてみました。等と言ってみたら、ほうほうと頷くお客さん三人。


 一口飲み、「お、旨い」。と言ってあっという間に飲み干してから「あ…もう無い」と唖然となる大家さん。


「お代わりいります?」


 と言ってみたら、速攻で頷いていた。


「これ、旨いな」

「ふふ、煎茶をウチで焙じた当店オリジナルの焙じ茶です。100グラム300円と500円の2種類取り扱っています」

「商売上手だな、今俺の前にあるのと同じのを頼む」

「有難う御座います、300円になります」

「えー何々、家にも欲しいな~!」

「まだ飲んでいないのに良いのですか?」

「この後出て来るだろうし、店長さんのお手製なら間違いなし」


「おや」と言って笑う。

「そうだな」と返事をする各務さんの夫である道和さんの即答に嬉しくなる。


 今日もいい日だなぁ、良いことあった。お店を閉めたらまた近所の神社に行ってお参りしてこよう。本日も良いことがありましたって、ね。



 ※


『架空設定』ですが、主人公が現在住んでいる辺りは柴又周辺という設定です。あくまでも架空のため、現実世界とは全く違います。(『ある日~』の設定場所も柴又…)

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