第9話 幻の泉へ

「へえー。けっこう感じが出るな」

 うっそうとした森の中、もはや獣道のような道を歩きながら中原が感心したように言うと、菊池がその肩をこずいた。

「感じが出るって。なにがだよ」

「これか?」

 佐々木が、胸の前で両手をだらりとたらす。

 うわー! とバカみたいに騒いでいたが、本当にアホらしかったので、とりあえず無視する。

「ケン、私こわいなぁ」

「大丈夫だよ、みんないるし。――あ、ユカちゃん! なんでそんな後ろの方いるの? 俺と一緒に歩こうよー」

 その瞬間、阿野さんがギロッとこっちを向いた。

 片倉、たのむからあまり私にかまわないでー!

「大丈夫だよ! 片倉くん。マリがユカと一緒にいるから。ねっ?」

「あ、うん。そうだね……」

「……ふーん」

 すごく納得いかなそうだったが、片倉はふいと顔を前に戻した。

「あっ、見えてきた!」

 中原たちが指さした場所は、暗い森で一か所だけポツンと明るい場所だった。

「「「「「「おおぉー……!」」」」」」

 思わず、全員が感嘆の声をあげた。

 幻の泉と言うだけあって、それは不思議な色をしていた。

 赤だか青だか、黄色だか。いろんな色が混ざり合った水面は、下がなにも見えないけれど、なんだか透き通って見える。

「めっちゃキレイじゃん! じゃあ、俺から試すよ!」

 そう言って、片倉が前へ出た。

「え、試す……?」

 確かに過去が見える泉だとは聞いていたけど、本当に見えるとは信じていなかった。

「過去が見えるって、本当か俺が試すってこと! ちゃんとやり方があるんだよー」

 片倉がどこに隠し持っていたのか、バッと紙を広げた。

 1.泉の前に立ち、おじぎを一回してから泉をのぞきこむ

 2.「われの過去をあらわにせよ」と三回唱える

 3.泡が出てきたら、水面に自分の過去がうつる

「結果は例外もあるらしいけど……。ちなみに、成功した人としてない人がいるらしいよ」

 ニコッと笑うと、片倉は泉の前に立つ。

 結果は……。

「なんでだあー!!!」

 失敗だった……。

 あんだけ威勢よく行ったのだから、少しかわいそうだ。

 その後、全員が行ったが結果は失敗。

「なんでだろうなー。やっぱ過去が短いからかな。若いし……」

 ぶつぶつつぶやくマリは、不満そうだ。

「じゃあ、最後はユカちゃんだね!」

「えっ、いや私は……」

 びしっと指さした片倉にブンブンと首をふる。

 もともと、見るだけで終わるつもりだったのだ。まさか自分がするなんて思っていない。

「ほらほら」「俺らもやったんだしー」「やりなさい」

 みんなにおされ、泉の前に立つ。2まで一応やったのだが……。

「なにもおきないね……」

 マリがつぶやく。その直後だった。

 ごぼごぼごぼ――。

「えっ――!」

 水面に泡がたったのは。

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