第8話 準備

「ふわぁ~」

 朝、七時。

 なにもこんなに早く行かなくてもいいのに、とユカは思った。

 今日は、『過去の泉』と呼ばれる泉に行く日。

 片倉が言うには、「人気観光スポットだから、早く行った方がいい」らしい。

 私は聞いたことないけど……。

 ピーンポーン。

 着替え、朝食を食べていると、チャイムが鳴った。

「はーい……って、マリ。どしたの」

「どしたのじゃないよぉ~! ユカを守るんだから」

 そういえば、そんなこと言ってたな。

「ユカ。どこか行くの?」

 ひょっこりと母さんがキッチンから顔を出した。

「あー、うん。マリのクラスメイトと、『過去の泉』ってとこに」

 何気なく、そう言った瞬間、母さんの顔がこわばった。

「過去の……泉? ユカ、そこはその……」

「――なに? どしたの、母さん?」

 明らかに様子のおかしい母さんを見て、私も少しこわくなる。

「……ユカ。今日は、母さんが髪を結ってあげる」

「え? どしたの急に」

「いいの、だってマリちゃんのクラスメイトたちと行くんでしょ? 少しくらいオシャレしなきゃ」

 あまりにもせがむものだから、仕方なく了承する。

 でも、母の手が少し震えていることは、なんとなくわかった。

「行ってきまーす」

「……うん、行ってらっしゃい」

 母さんがなぜこのときあいまいに笑みを浮かべたのか。

 それは、すぐわかった――。


「なんか、お母さんおかしかったねー」

「うん……そうだね」

 マリと集合場所へ向かう間、そんな話ばかりしていた。

 待ち合わせは七時半。

 母さんに髪をゆってもらってたから、少し遅れた。

 案の定、待ち合わせ場所にはもうみんな来ていた。

「あ、ユカちゃん、倉崎さーん!」

 ……多分、この中で一番輝いているだろう。

 キラキラと笑顔をふりまくイケメン、片倉健。

 その横には、今にもおそいかかってきそうな阿野さん。

 その他、前に会ったメンバーだった。

「おはよう! ユカちゃん、髪型変えたんだねー。すっごいカワイイ!」

「あ、うん、ありが……ひっ」

 あいまいに笑みをうかべ、返そうとしたのだが、その視界にうらめしそうな顔をした阿野さんがいた。

 こわっ。ちょっと、片倉とはあんまし関わらないでおこう。

「なんだよ、片倉、そいつ好きなの?」

 ちゃかすように、中原たちが笑う。

 でもそんなからかいより、こっちを見てる阿野さんの目が怖すぎてどうでもよくなる。

「さあまあ、行こうか!」

「あまってケン」

 ニコッと笑う片倉に、ピタっとよりそう阿野さん。

 さっき名前を聞いたんだけど、中原・菊池・佐々木っていうらしい。

 その三人も、しゃべりながらついて来る。

「ユカ、行こ?」

 マリが、待っている。

「うん」

 この先、なにがあるのか考えもしなかった――。

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