第7話 執着の美少女

「は、はい?」

 ちょっとなんで私、つめ寄られてるんだろう……。

 さっきまで、みんなで「過去の泉」ってとこに行こうって話になってたんだけど……。

 なんでか、美少女・阿野リンさんにつめ寄られてるんだよね……。

「ケンと、どうゆう関係?」

「ちょっと。片倉くんとユカは何も関係ないわよ! てか、阿野さんこそ関係ないじゃん」

 私をかばおうと、マリが前へ出る。

「は? 私は気になるから聞いてるの。倉崎さんこそ、関係ないわ」

 バチバチと火花ちらす二人。

 どうしよー。

「あ、阿野さん。マリの言う通り、私は関係ないよ」

 思い切って言ってみると、ギロっとにらまれた。

 あまりの気迫に、身がすくむ。

「じゃあなんで、名前で呼ばれてるの⁉︎ ケンは、みんなのこと苗字で呼ぶのに!」

 あ、それで怒ってたのか!

 でも、友だちのことを名前で呼ぶのは別に変なことじゃないと思うけどな。

 それに、私の苗字はあまり言ってほしくないし……。

「うーん。それは、その……なりゆきというか」

「はあ⁉ 言っとくけど、ケンにあなたは似合わないからね!」

 そういって、阿野さんは私をビシッと指さした。

「顔もかわいくないし! センスだってそんなないし、モテる要素ないから! 顔もかわいくないし!」

 地味に傷つくな……。

 というか、「顔かわいくない」ってそんな重要なこと⁉ 二回言ってない⁉

 マリもあきれて、声も出ないようだった。

「だ・か・ら。――当日、ケンには手を出さないでね!」

 ふんっというだけいうと、阿野さんは行ってしまった。

「ちょ、あの、あの子。だいじょぶなの?」

「まぁ……色々激しい子だったけど……」

 二人して、半ば引き気味になってしまった。

「阿野さんに目をつけられたら、あんまし良いことないんだよ……」

 え? なに怖いんだが。

 マリは、ちょっと顔をこわめにさせて、声をひそめて言った。

「阿野さん、ああやって片倉くんへの執着がひどいんだよ。でも、片倉くん人気だから……いっぱい片倉くんのこと好きな女子がいるの」

 あ、なんとなくわかったよ。

「ねえそれ、私大丈夫?」

「……まあ、大丈夫だよ!」

 ニコニコ笑ってるのが、逆に怖いんだけど。

「ねえ、私いかなくてもよくない? マリのいとこっていう設定だし……わっ」

 言いかけると、マリはくわっと目を見開いた。

 な、なんだ?

「それはダメ! 片倉くん、なんかユカに執着してる気がする。ちょっとアブナイから、マリが見張ってるし!」

「え? 執着って……。そんな重い話じゃないよ」

 へらっと笑うが、マリの顔は真剣そのものだ。

「……てか、マリは片倉のことが……」

 好きなんじゃないの?

 言えなくて。言葉をにごした。

「スキだけど! でも親友のほうが大事」

 きっぱりいいきるマリに、少し感動してしまう。

 こんな悠長なこと思ってるだけで。

 あんなことが待ってるなんて。まだ、知らなかったんだ――。


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