第6話 過去の泉

 歩いてくるのは、背の高いスポーツ系男子たちと、一人の可愛い女子。

「よお! 倉コンビ。……と、そいつは?」

 全員の視線が、私をむく。

 うっ。あんま見ないでほしいな……。

「ああ、彼女はユカちゃん。ユカちゃん、こっちは、中原たち。あ、阿野もいるんだー」

 片倉が、美少女に目をとめた。

 腰までの髪をカールさせていて、キリッとした目はかっこいい。

「うん。ケンがいるって聞いたから」

「……」

 ギロッとマリが阿野さんをにらんだ。

 おお……。そういう関係か……。

 察しはいいほうなので、なんとなく状況がわかった。

「しかし、めずらしいね。中原が、こんなとこ来るなんて」

「中原たち、いつも公園でサッカーとかしてるから、めったに商店街にこないの」

 ぼそっと、マリが教えてくれた。

「ああ、小金院のしわざかって町中うわさになってるからな」

「俺たち、それが気になって来たんだ!」

「リンは、ケンに会いに来たんだぁ」

「あんまりくっついちゃ、めいわくだよ? 阿野さん」

 マリがなかば切れ気味に、片倉にすりよる阿野さんをそししている。

(小金院……)

 なんだ。すごくいごごちが悪い。まるで、私たちが悪いみたいじゃないか。

「まー、聞いてるとこ、そんな関係ないっぽいけど」

 つまらなそうに、中原が言った。

 そうか。関係ない。

 それを聞いて、少しほっとした。

「……そうだ! ねえ今度みんなで、幻の泉に行かない?」

 片倉が、わざとらしく明るく言った。

 幻の泉? こんな田舎に、そんなとこあるの?

「いいな! あれ、『過去の泉』ともいうんだろ?」

 過去の泉……!

 これがあれば、お姉ちゃんのことも、わかるかもしれない!

 期待に胸をふくらませながら、大きく首をふった。

「わ、私行きたいな」

 みんなが、そうだね、とうなずいてくれた。

 そんな中、阿野さんが私をにらんでいたことも知らずに――。

「――じゃあ、明日ここで!」

 元気よく片倉が言うと、みんなそれぞれ散っていった。

「じゃあユカ、帰ろうか」

「あ、ああ。って、うわっ⁉」

 思いっきり手首を引っ張られて、転びそうになる。

「ちょっと、あなたに話があるんだけど」

 ぎらついた瞳で冷たく言い放たれた。

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