第5話 悪寒

「ちょ、ちょっと! どういうことですか!?」

「マリ。落ち着け」

 とんでもない言葉を発した男の人たちにつめよるマリを、なだめながら思う。

「小金院の子のしわざ」とか、「死んだ」とか、どういうことだろう。

 頭の中でぐるぐるまわって、なにも考えられない。

「どういうことって。嬢ちゃん、知らないのかい? 七年前の事件」

「じ、事件?」

 私は、ただじっと黙ってきいている。

「そう。七年前、小金院時雨って子がスーパーの店主・お客、合計十一人を大量惨殺したんだ」

「しぐ、れ……」

 お姉ちゃんの名前。

 殺した? 人を? 

 うそだ。お姉ちゃんが、そんなことするわけない。

「まあでも、その後行方不明になって、死んだんじゃないかって言われてるけどね」

「……そうなんですか」

 マリは、それだけ言うと私の手をひっぱって男の人たちからはなれていった。

 しばらく歩くと、マリは足を止めた。

「ねえ、ユカ。気にしなくていいからね、あんなの」

「あ、うん。平気だよ、全然」

 本当は全然平気じゃなかったけど、これ以上なにか言うのも気が引ける。

「あ、ユカちゃーん! 倉崎さーん!」

「ええっ、ケンくん!」

 ん? なんだ、マリのテンションが上がったぞ?

 手をふってかけよってくる片倉を見る目が、キラキラ輝いている。

 これは……二人にしといた方がいい感じか?

「こんにちは。こんなとこで、なにしてるの?」

「あ、えっと、ここらへんでおきた事件が気になって、少し見に来たの」

「へえー! 俺も! 気が合うねー」

「はっ、う、うん!」

 赤くなって。年頃だなあ。

 話している二人から、そっと離れようとした。

 その時だ。

「あー! 片倉に倉崎じゃん」

 また来たよ……。

 一人、心の中で悪寒がはしった――。

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