第3話 出会い

 お姉ちゃんは、引っ越しとともにいなくなった。父さんや母さんは、なにも教えてくれない。

 真実がわからなくって。どうしようもなく、うだうだしていたら時間だけがすぎていった。

 ピロリンッ。

「ん?」

 スマホを手に取って、画面をひらく。誰からのメールだろう。

『母さん

 Re:お願い

 ごめーん。少し、買い物に行っておいてくれない?今日は、母さんも父さんもおそいから』

「はあ……」

 しかたない。午前中はめんどうだから、午後に行こう。

 と、思ったのがいけなかった。

「まって。まって」

 家を出て、すぐ気づいた。

「午後三時って……小学生の下校時間じゃん」

 いや、それがなんだ。という声もあるかもしれない。けど、引きこもりが同年代、同学年の人に見られる。それは、精神的にキツイのだ……。

 しかし、ここで引き返すのはなんだか気がひける。

 ぼうしをまぶかにかぶり、そそくさと歩く。

「な、なんとかたどり着いた……」

 母さんがよく行っているという魚屋。ここの魚を使ったラーメンがガチでうまい。

「あ、あのお」

 とりあえず、店の人に声をかけてみる。

「はーい! なんでしょう?」

 なにっ⁉ なにこのキラッキラな笑顔。てか、同い年じゃない⁉

「あれ、同い年くらいかなあ。学校、どこ?」

 ヤバイ、こういうタイプ苦手だ……!

「ああ、えっと、北小……」

 通ってないけど。

 男の子はちょこんと首をかしげる。

「北小? 俺と一緒だね! でも、君見たことあったけ……?」

「え、ああっ、クラスが違うんじゃない?」

「そっかなあ……? まあ、いっか。今日は、どんな魚をお求めでしょうか!」

 お、おお。これは……学校の人気者ってとこなのかな?

 顔もけっこういいし、ボーイッシュで人なつっこいってとこかな。

「えっと……ラーメンにいれて、おいしそうなやつ……」

 すっごく変に答えてしまったあああっ。わかるわけないでしょ!

「うーん。ラーメンに魚……?」

 あ、だまった理由そっち?

「あ! 君、いつも来てくれてるお母さんの子でしょ!」

「ああ、多分そうだよ……」

「やっぱり! よし、じゃあ割引きするね!」

 なんとか、買えた……。

「また来てねー!」

 どうしよっかなあ。疲れた……あのキラキラオーラ。

「あ、そうだー!」

「なに?」

 男の子は、ブンブンふっていた手を止めた。

「俺、片倉健っていうんだ。君はー?」

「わ、私は。小金院結花。名字と名前、かみあわないでしょ」

「そんなことないよ。いい名前!」

 イケメンっていうのは、こんなこともサラッと言えるのか。

「またね!」

「またね」

 そそくさと、でも、行きよりも軽い足どりで、わたしは歩いた。


「……ふーん、小金院、かあ」

 ケンは早歩きで帰っていくユカをじいっと見つめた。

 その目つきが、獲物をとらえた蛇の目のようになっていたのは、誰も気がつかなかった――。




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