第2話

「ふぁ~」

 朝。大きなあくびをして、ベッドからおりる。

「ユカ、おはよう」

 ニコニコとあいさつするのは、母さん。今日も朝から、家族全員のお弁当をせっせとつくっている。

「ん、おはよう。……父さんは?」

「父さんなら、ついさっき会社に行ったわよ」

 会社……。父さんが、どんな会社に勤めているなんて、知らないや。

「母さんも行ってくるから」

「行ってらっしゃい」

 うちは、両親が共働きで、夜中まで帰ってこない。だからって、怖いことはないけど。

 ふと、玄関で足をとめて、母さんはふり返る。

「ねえ……ユカ、本当に学校行く気ない?」

「うん、ない」

 きっぱり言うと、母さんは少しだけ悲しそうな顔をして、「そっか」と家を出た。

 わたしは、不登校だ。

 もう、小6だというのに、四年前から一回も学校に行っていない。

「はぁ」

 ため息が、でる。

 ふと、リビングの奥のたたみの部屋に、目が移る。

「おはよう、お姉ちゃん」

 広いたたみの中に、ぽつんと置かれた仏壇。写真にうつっているのは、はにかむような顔で笑った、少女。背中まである、真っ黒な髪をおろして、麦わら帽子をかぶっている。

 お姉ちゃんは、わたしが不登校になった原因だった――。

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