第25話 6+1

死にかけた体に、生命力が湧き上がってくる。



それと同時に、なさけなさがこみ上げてきて、涙が出た。



なんでこんな人間になったんだ。



どこで道を間違えたんだ。



こんなハズじゃなかった。



「ところでおっさん、ちょっと俺についてきてくれないか」



おにぎりを食べ終え、お茶を一気飲みする洋太に男がそう言い、立ち上がった。



さっさと洋太に背を向けて、歩き出す。



付いていくべきか?



判断に迷い、その場に突っ立っていると、男が一度振り向き、手招きをした。



それに導かれるようにして、男の後を追ったのだった……。


☆    ☆    ☆    ☆


そして、今、ここにいる。



途中から記憶がスコンと消えていて、目が覚めるとこの檻の中にいたのだ。



あの男にハメられた。



咄嗟にそう思った。



きっと、あの食べ物の中には睡眠薬か何かが入っていたのだろう。



けれど、身寄りも金もない自分をこんなところに連れてきて、一体何をするつもりだ?



普通じゃない状況下に置かれても、失うものが何もない洋太は、不思議と冷静でいられた。



目の前の六人の男たちを、左から順番に睨みつけていく。



「お前たちは誰だ」



洋太の口から、自分のものとは思えないしわがれた声が発せられた。



ホームレスをしている内にそこまで年をとった、という事だ。



その問いかけに、そこにいる誰もが反応を示さない。



まるで、洋太の声が聞こえていないかのような、すばらしい無視の連係プレーだ。



しかし、洋太だってダテに歳をくっているわけじゃない。



俺が今ここにいるのは、何か理由があるからだ。



そして、目の前にいる奴らは間違いなく、その『何か』を知っている。



と、いうことは、こいつらは俺が必要なハズだ。



じゃなきゃこんな檻にホームレスを閉じ込めるわけがない。



「おい! なんとか言ったらどうだ!?」



怒鳴りながら、座ったまま壁を蹴りつける。



立ち上がることは出来ない。それほどの高さも、体の伸ばして寝転ぶほどの幅もない檻だ。



「こんなチンケな檻、ぶっ壊してやる!!」



そう言って、再び壁を蹴りつけた。



いわば、自分は雑な対応を受けているビップな有名人と思えばいい。



ここから逃げ出されたら、こいつらは大そう困るだろう。



その時、一番左端にいた男が動きを見せた。



六人全員がつけている、大きな黒い腕時計。



それをチラリと確認すると、他の五人と目配せし、一歩、前へ出たのだ。



平均よりも一回りほど背が小さいみたいだが、座っている俺から見れば、威圧感は充分すぎるほどあった。



黒マスクから見える目が、微かにゆがんだ。



笑ったのだ。



「これからお前に、ある話を聞かせてやる」



低い、男の鼻声が聞こえてきた。



洋太の緊張はピークに達して、背筋に冷や汗が流れる。



「は……話!?」



声が、見事に裏返った。



「あぁ。今日から六日間、ある人間たちの出来事を聞かせてやる」



「六日間? 六日も、俺をこのままにしておくつもりか」



「見ればわかるだろう」



男の言葉に俺は眉をよせる。



それから、他の五人の男たちへ視線をうつした。



男が六人。今日から六日間。



「まさか、ここにいる男たちが、一人一日かけて、俺に話を聞かせるつもりか?」



頬に冷たい汗がつたい、それが檻の床に落ちて消えた。



「その通りだ」



男が黄ばんだ歯を除かせ、洋太の目の前にあぐらをかいて座った。



洋太と男を隔てているのは、金属製の太い鉄格子だけ。



この檻は刑務所なんかで見られる頑丈なものではなく、どこにでもありそうなただのプレハブでできている。



けれど、目の前の鉄格子だけは本格的なものらしく、触れるとその冷たさで心臓が凍ってしまいそうだ。



「そんなことをしてどうする!!」



思わず、鉄格子の隙間から手を伸ばし、相手に掴みかかろうとする。



その瞬間、延ばした右手に鋭い痛みが走り、洋太は声をあげてうずくまった。



指先が痺れ、細かく震える。

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